ケンシューイ

恐怖分子のケンシューイのレビュー・感想・評価

恐怖分子(1986年製作の映画)
3.9
まるで植物のように“恐怖”の種が発芽して、すくすくと成長していくさまを見せつけられた。

・個々の登場人物の描写
・人物の関係と偶然の交差
・感情の推移と物語の発展

前半は登場人物一人一人の置かれている状況を割と長く説明していくので、話しの行き先が見えて来なくてけっこうつまらない気もした。そこからなかなか強引とも言えるのか、偶然に人物同士がつながっていくところからゾッとし始めて、気付けばこのストーリーの虜になってた。
物語構成が巧いので最終的に結末部分にどうしても目がいってしまうけど、そこに至るまでの個人の感情部分が重要なんだろうなと思った。人生なんてうまくいかないことだらけで、皆んなもっと良くなりたいと思って生きてる。そんな当たり前のところがちょっとズレていくと変なところに行ってしまう。各々が利己的に行動することと社会的に協調することとは相反する部分があるのでどこかでバランスはとらないといけなくて、それは警察とかの公的な力には限界があるので結局は個人の道徳に依るだろうなと思った。
それにしてもこの監督の映像はカッコいいなー。あの花瓶が割れるところとか魅せられるし、音声は動いてるのに映像は止まってたりとかも想像力を掻き立たせられる。それから小道具の使い方。『台北ストーリー』でもサングラスとタバコが感情を表現する象徴に使われてた。本作もあの回転ダイヤル式の電話はストーリー上の鍵になってる。鋭く尖ったナイフはあの娘そのものに思えたし、ピストル・万年筆・カメラなど個々のキャラクターを象徴するアイテムが感情を伝えてたように思う。