Azuという名のブシェミ夫人

パーフェクト・センスのAzuという名のブシェミ夫人のレビュー・感想・評価

パーフェクト・センス(2011年製作の映画)
4.1
伝染病なのか原因も分からぬまま、突如世界中の人々から五感が奪われていく。
まずは嗅覚、次に味覚…。
そんな渦中に出会い、恋に落ちる男と女。

あらすじからパンデミックパニックな映画だと思い込んでいた。
確かにそういう側面はあるのだけれど、描かれるのは徐々に自分を見失いかけながら、僅かに残された感覚に過去と未来を託して自己の尊厳や秩序を守ろうとするごく普通の人々の姿。
これはきっと私たちの姿だ。
思いがけず人間の深淵を覗き込まされるような、美しく印象的な作品。
好みが極端に振れそうな感じですが、私はとても好き。

ユアン・マクレガーには不思議な魅力がある。
もちろんルックスがイイ。笑
真っ直ぐな瞳で素直に人間味を表現する。
特に“現実離れした世界観での”人間のリアリティを出すのが上手いと思う。
いつまでも少年のようで好きな俳優さん。
エヴァ・グリーンも刹那的な雰囲気が相まって、美しくとっても魅力的。
精神的な強さと脆さの間で動く繊細な感情の揺れを見てとれる演技が素敵でした。

家族との散歩道、何処からか風に乗ってきていた金木犀の香り。
甘い、辛い、苦い、酸っぱい・・・ペコペコのお腹だけでなく心も満たす味と匂い。
大好きなミュージシャンの音楽。
大切な人たちの笑顔、笑い声、温もり。
愛して止まない数々の映画。
五感はそこにあるものだけでなく、思い出も呼び覚ます。
私という人間を創ってきた溢れんばかりの要素たち。
それを思うと彼等が失ったものはあまりにも大きく、受け入れがたい。
しかし実際のところ、失われた感覚を補うように、他の感覚が非常に研ぎ澄まされてくるという。
そうして徐々に五感が削ぎ落とされていった結果、人の持つ能力は濃縮抽出されていくのだろうか。
そこに残されるのは肉体的な器官では説明のつかないもの。
あえて言葉にするならば、陳腐だけれど“心”かな。
それは一体どれほどのパワーと可能性を秘めているでしょうか。
恋に落ちた二人。
きっと私たちの想像を遥かに超えたかたちで、愛の存在を感じることが出来ているのではないか。
そんなものは泡沫の夢だと笑われるかもしれませんが、最期くらいせっかく人間が持ち合わせて生まれてきた希望をそこに見出したっていいじゃないか。
私はそう願いたいし、願う。