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悪霊島のドントのレビュー・感想・評価

悪霊島(1981年製作の映画)
3.5
1981年。人探しのため広島県の孤島・刑部島に向かう金田一耕助。折しも町ではある老婆が殺され、島へ向かう船が海に浮かぶ瀕死の男を拾い上げる。「あの島には悪霊がとり憑いている……鵺の鳴く夜には気をつけろ……」 島で起きる奇怪な殺人と秘密に立ち向かう、鹿賀丈史=金田一映画。ちなみに原作の横溝正史死去直後の公開。
市川崑監督の金田一とはまた趣の変わった雰囲気の出し方や映像の凝り方(ついでにグロも頑張っている)によって退屈することはない。が、登場人物のごちゃごちゃ感、理に勝りすぎて推理・説明が重荷となっている筋書きが足を引っ張っている。ミステリ映画はここが難しい。とはいえ石坂か古谷のイメージが強い中、飄々と風のようでちょっと頼りないこの鹿賀金田一も抜群に良く、室田日出男の磯川警部もしっくり来ている。このキャストがこれ1本だったのはいささかもったいなく感じた。
冒頭、語り手の男がジョン・レノン殺害の報道を観て、ビートルズ「レット・イット・ビー」をBGMに10年前のこの事件を思い出す場面から幕が開ける本作は、つまるところ時代の終わりであり、過去への郷愁であり、あるいは1980年以降はもはや存在しえなくなった/リアリティがなくなった「金田一耕助的世界観」への惜別のようにも思える。道具立て、因業の絡んだトリック、おどろおどろしさもどこかしら空回りで、それはもちろん欠点ではあるのだけど、そこも含めて過ぎ去ってしまった何かへの情が心に巻き起こる。本作をもって以降15年間、金田一耕助の映画は作られなくなる。ラストシークエンスで誰とも言葉を交わさず、どこかにカラコロと歩いていく鹿賀金田一の背中はとても寂しい。
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