つのつの

ヤング≒アダルトのつのつののレビュー・感想・評価

ヤング≒アダルト(2011年製作の映画)
3.9
【スウィート37モンスター】
主人公が善人ではなくむしろ感じ悪く嫌な奴である映画は意外と多い。ソーシャルネットワークなどがその代表かもしれない。
しかし本作は「感じ悪い主人公モノ」の極北に達した作品である。

マッドマックスFRやアトミックブロンドでの名演により今や食物連鎖の頂点という肩書きを持つようになったシャーリーズセロンが扮するのは、ヤングアダルト作家でバツイチアラサー女メイビス。
「彼女が高校卒業以来に里帰りした故郷で起こす騒動を描くコメディ」といえば聞こえはいいかもしれないが、本作のキツさは相当なものがある。
何しろメイビスの痛々しさが映画史に残るレベルだから!

学生時代スクールカーストのトップだったという過去の栄光があるからか、旧友に再会しても自分の切羽詰まった状況を打ち明けられず見栄を張り続けるメイビスの哀れなことよ。
それでいて自分より幸せような人間達へは露骨に嫉妬するのがまた辛い。
彼女が田舎に帰ったのには、元カレとよりを戻すという魂胆があるのだが彼は既婚者で子供までいる。
メイビスの痛々しさがよくわかる観客にとって、彼女が自分の目的のために奔走している様は最早狂気にしか映らない。
実際彼女は殆ど狂気に飲み込まれていたのかもしれない。
充実していたのは学生時代だけであり、その後の人生は決して順風満帆とはいえない。
そのくせプライドだけは高いから「こんなはずじゃない」という焦りが内面でどんどん膨れ上がり、到底叶いそうにない幻想にすがりついてしまうのだ。
彼女の七転八倒ぶりは、基本的に劇中でシニカルな笑いとして観客に提示されるが我々は全く笑うことはできない。
何故なら彼女の弱さは誰もが身につまされる類のものだからだ。
個人的に一番きつかったのは、夜のケンタッキーフライドチキンで孤独にディナーをしている彼女の背中を映す場面。
彼女が学生時代に思い描いていた未来像とは恐らく180度かけ離れているであろうその状況があまりにも物悲しい。
彼女の痛々しさが遂に限界を迎えるのパーティー会場での修羅場シーンのキツさは映画史に残ります。
本気で直視するのが不可能なレベルでエグい。
メイビスと旧友だけならともかくメイビスの両親の視点とかまで入れてんじゃねえよ!(笑)

この映画で一番好きな点は、彼女が狂気スレスレの状態にまで追い込まれていく要因が彼女の性格の悪さだけではなく周囲の人間の無神経さにもあることが描かれる点。
彼女を露骨に蔑視する人々はもちろん、バディの優柔不断さやバディの奥さんの「善意の押し付け」にも非はあるだろ。
彼らがもっと親身になってメイビスに助言してあげればもっと被害は食い止められたはずです。ふざけんなよ!

そんなファッキン田舎の中で唯一メイビスに厳しくも的を射た助言をしてあげるのが彼女と正反対の立場にあったマットというのが皮肉ながらも優しい展開だ。
学生時代に「見下されるしかなかった」マットと「見下すしかなかった」メイビスは立場の差こそあれスクールカーストという構造の被害者であることは変わりはない。
そんな二人が繰り広げるラブシーンの痛ましさと切なさには感涙してしまいました。
ちなみにここでセロンが見せる背中のヘナヘナさがアトミックブロンドと大違いすぎてショッキング(笑)

最終的にクソ野郎な彼女が100%善人にならない結末に、作り手のビターかつ優しい視線が感じられる。
いくら人としては間違っていようと正しい行いができなかろうとも、夢を持って傷つきながら邁進しようという精神自体は、生まれ育った環境に何の迷いもなく順応していく「オトナ」な選択より尊いかもしれないじゃないか。
少なくともこういう生き方を馬鹿にできないだろ。
このようなメッセージを最後に提示してくれる作り手のオトナなパッションに感動しました。
セロン様の演技魂にも頭が下がります。
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