ディアブロ・コディの脚本が幾重にも練られていて素晴らしい。
よくある成長物語として描かれていないのが本作の面白いところ。
無駄なシーンが一切ない、まとまりのいい94分の映画。
メイビスに嫌悪感しか持たないのなら、もう一度映画を鑑賞した方がいい。
彼女は、彼に妻がいることにも、
まして子供が生まれたばかりだということにも全く動じない。
彼女をその行動へ向かわせている動機が彼への愛情ではないのが寂しい。
ものすごくイタい女性だけど心のどこかで彼女を嫌いになれないのは
少しでも彼女の中に、一番輝いていた頃の自分を引きずって、
いつまでも過去から卒業できない「私自身」を
投影してしまうからだと思う。
故郷のバーで偶然出会う、
高校時代の同級生マットが今も孤独に暮らしているのは、
イジメられた過去を持つからでも、障害を持っているからでもなく、
(だからこそ『障害があっても陽気に生きる人間』を
監督はわざわざ物語に組み込んでいるのであって)
彼もまたいつまでも過去に固執して抜け出せない人間の一人だから。
両極端な高校生活を送った二人なのに、
過去に縛られて抜け出せないという点ではマットもメイビスと同じ。
しだいに深く心を通わせていく。
ラストシーン。
「見た目がボロボロだろうと、
周囲からどう見られようと、まだ動く。大丈夫」
「自分は確かに不幸かもしれない、でも絶対に負けは認めない」
そんなガラスのプライドを守り続ける決意をする彼女。
ガラスを取り外すのではなく、
強化ガラス、防弾ガラスにリニューアルした彼女。
世間的な価値観に順応するのが大人か。
かといって、ずっと今のままでいいのか。
「『大人になる』とは一体どういうことなのか」を
鑑賞後もずっと考えてしまう。
メイビスが『Keeping up with the Kardashians』を観ているシーンがある。
日本でリメイクするなら、あの番組は『ビッグダディ』になるだろう。