古き良き邦画の世界を少しずつ開拓しているけど、橋下忍の脚本って毎度唸る程面白い。
「羅生門」も「七人の侍」も「白い巨塔」も「日本のいちばん長い日」も「砂の器」も「八つ墓村」も、ぜーんぶ橋本忍。日本映画界の神。
本作も、また唸る。
井伊家の屋敷を訪ねてきた老浪人津雲半四郎(仲代達矢)。聞けば、「生活に窮し、このまま生き恥を晒すよりは潔く切腹したい。ついては屋敷の玄関先を借りたい」との事。井伊家の家老である斎藤勘解由(さいとうかげゆ/三國連太郎)は、先日同じ様に申し出た千々岩求女(ちぢいわもとめ)なる若い浪人を庭先で切腹させた顛末を語り始める—— 。
この、切腹したいから玄関先貸してっていうのは、当時、江戸市中で食い詰め浪人によって横行していたゆすりの手法だそうな。
いや、これ自分だったらさぁ。
普通に、
「お断り致す!!」だよ。
だってー。
誰が死体の片付けすんのよ!?
おまけに介添まで頼むんかいな!?
他所の屋敷で死に恥晒すんかいな!?
…
……と一瞬雑念が脳裏をよぎったけど、構わず観る。
冒頭、モノクロながら映し出される大邸宅の美しさに惚れ惚れ。そして、日本語の美しさ。誇るべき日本文化が此処に。
仲代達矢がイケボ過ぎ。
奇しくも同じ屋敷を訪れ、同じ申し出をした半四郎と求女。彼らに隠された秘密とは—— ?
半四郎と勘解由の会話の駆け引きにどんどん惹き込まれる。これぞ橋本忍脚本の面白さ。
其処には、哀しき浪人の慎ましやかな幸せがあったのに…。
竹の刀による切腹。
その苦痛や計り知れぬッッ!!
半四郎が井伊家の手練の剣士達に介添を頼むも、その誰もがお休みなんだって。
3人も休みなのはワロタ。
なになに!?江戸時代の働き方改革なの!?現代の日本人より休んでるんじゃない!?
これも全部半四郎の計劃通りと知って、ニヤリ。
終盤、丹波哲郎演じる沢潟彦九郎と半四郎の決着シーン。そして、屋敷で井伊家の家臣達に取り囲まれての半四郎の大立ち回り。そのどちらも、実に見事なり!!これは見応え十分、世界に誇れるクオリティ。
家臣の不始末、彼らの死をも偽装しようとは、武士の誇りとやらも、世間様を気にするだけのただの上辺のプライドなのね。
これは、日本人の、日本人による、日本人の為の強烈なブラックユーモア。
武家社会の虚飾、虚勢と武士道の残酷性を描き、侍精神に対するアンチテーゼとして作られた本作が、海外では美しいと称賛されたと言う。
この作品の真の面白さは、日本人である我々だからこそ感じ取れる、ネイティブならではの独自の感覚なのかも。