父母ともに癌

切腹の父母ともに癌のレビュー・感想・評価

切腹(1962年製作の映画)
4.5
小林正樹の映画はこれが二本目。
この映画も面白かった。
序盤、石濱朗に訪れる悲劇の描写が素晴らしい。
ちょっとしたウェルメイド感を醸し出しながら事は進み、最後には目を覆いたくなるような悲劇。
特に「自分の重みで刺す」あのシーンはちょっと正視できないくらい素晴らしかった。

中盤以降は仲代達矢の語りから、彼の素性が解き明かされていくのだけれど、この構造もいい。
序盤は三国連太郎が石濱の最期を語り、中盤以降は仲代がその視点から物語を語る。状況の緊張感はそのままに、観ている人間に情報が入ってくる、見える画面が変わってくる。この情報と状況のアンサンブルが非常に気持ちがいい。
筋立てとしては割と地味は話だと思うが、この時系列の入れ替えと回想の使い方でかなりエンターテイメント性の高い脚本になっているから橋本忍は偉い。
台詞は相当現代的。
武士という設定をこんなに見事に料理した脚本はほかにないと思う。切腹、武士の誇り、士官。私たちの世代にもなんとなくわかるそれらの設定、美学と言い換えてもいいかもしれないけれど、それを上手く使っていて。それでいて台詞が現代的なので、妙に心に突き刺さるのだ。
武士の時代を経た私たちの心に武士の時代の美学を喚起させる。

画面の格好良さは相当なもので、特に、折々に映される井伊家屋敷外観のみっちりとした威圧感は権威性とその強力さを一目で感じさせるし、仲代
宅のライティングもすばらしい。余白なく意図が敷き詰められているような画面の連続でクラクラしてくる。

役者も非常に良くって。主役級はもちろんだが、ちょい役の稲葉義男とか小林昭二とか松村達雄とか。ちょっとクセのある役者をワンポイントでトントンと使っていくところも楽しい。

すごくいい映画だと思う。誰に勧めたらいいかわかんないけど、勧めたくなる映画だ。
父母ともに癌

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