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水の中のナイフのpikaのレビュー・感想・評価

水の中のナイフ(1962年製作の映画)
4.5
車外からカメラを回し、フロントガラスに映った木々の反射の陰影の変化で人物が浮かび上がるオープニングタイトル。男女が何やら話しているがまだ声は聞こえず、運転手が交代するタイミングでカメラも車内へと入り込み会話が聞こえてくる。まだドラマもろくに動き出していないのにこの秀逸さ。初っ端からガッシリ掴まれます。全編そんな感じで一泊二日の湖上漂流にて起きる取り留めのない出来事を鮮烈なほど印象的に可視化していく。
湖とヨットだけのモノクロ画面という閉ざされた空間であるのに全く狭っ苦しくなく、むしろどこまでも続く湖面の如き広大な奥行きさえ感じられる画面演出が面白い。手前と奥、卓を挟んで向き合う角度、マストの上など、三人のポジションが人物同士の精神的距離感のように常に変化している。
作業映画としても素晴らしく、映画のトーンを邪魔しない程度にキビキビとテンポ良く作業する様を愛でる楽しさも。
テーマソングのように時折流れる音楽が良すぎて、流れるたびに「キタキタキター!」ってガッツポーズしてしまう。
若者に張り合う小金持ちの中年旦那を影ながら淡々と支える奥さんの存在感。序盤は紅一点というくらいのものでしかなかった存在感がラストでは男二人の運命を左右するかのような大きさをもつ。真面目で健康的な美しさから徐々に妖艶なほどエロティックな魅力が噴出していく流れも素晴らしい。女の目から見てもキュンキュンしちゃう魅力の塊。ポランスキーはブニュエルやトリュフォーなどのフェティシズムとはまた違ったエロスを画面に映し出しているなぁと。あまりそういう部分に注目しないのでとても新鮮であるし、注目しないような観客さえも引き込んでしまうくらい作品の魅力のひとつにしていて凄い。
ナイフを男性性のアイコンに仕立て、男二人の子供のような張り合いを単なる戯れからスリリングな展開へと少しずつ引っ張っていくところが暗示的で興味深いし、のんびりとした平和そうな雰囲気の中で常に異彩を放ち続ける存在であるのも面白い。
見終わった後も何日か思い出しては酔いしれるくらい良かった。ポランスキー、たまらん!
旦那役がたまにニコラスに見えた。
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