わたしたちの背後には美しい景観が必要なんだろう。ちょうど高価な額縁が何でもない絵画を良く見せてしまうように。
パリは空さえ覆う。その境界線さえ魔法のように見えなくする。綴られた18の掌編は、どこかの街で、誰かの頭の中で、さりげなく起こる市井のことばかり。喜劇は喜劇なりに、悲劇は悲劇なりに、街は何かを語らう。そこに「パリ」という一滴のエッセンスを落とすだけで、立体的な美観が呈される。
結局、わたしたちは他者なんだろう。やがて去りゆくひとりに過ぎないのだろう。街が人を作り、人が街を作る、とめどない時の中。
ふと耳に届く生活音は、街が奏でるささいな物語の一編だ。一糸を編み込むように、思いが連綿と続いていく。
宵闇の街灯は永遠の呼び子。明日もまた訪れるまだ見ぬ朝を告げる。やがて光暈が丸く人々を包み、今日が始まる。この美しい街に、愛と死を携えて。
「愛ってなに?」
「胸の痛み。苦い思い出だ」
Je dirai plusieurs fois Paris Je'taime