ガンビー教授

クローズ・アップのガンビー教授のレビュー・感想・評価

クローズ・アップ(1990年製作の映画)
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新年早々イランできな臭い事態が勃発しているさなか、映画初めの1本として。

映画監督マフマルバフを騙ってアーハンハー家に近づいた貧しい男ザブジアンを追った作品。実際のドキュメンタリー的映像と劇映画的な映像が交互にインサートされる。
監獄でキアロスタミとザブジアンが初めて接触する場面、じりじりと"クローズアップ"してゆくカメラ、大写しになってゆく男の顔にこちらを見返されるような緊張感があるし、虚実の皮膜をゆるやかに突き崩されるような気分になってくる裁判のフッテージ、またついに嘘が露見し潜り込んだ男が通報されるに至るまでの静かな群像劇の捌きかた、静かなサスペンスの醸成は見事の一言。実質と虚構の幾重かに折り重なった不思議なメタ構造も油断ならない。あらためてキアロスタミは変な映画作家である。

一方で、いつものキアロスタミ映画(俳優が移動し続けることで映画が展開していく)と違って物語の場が局所的に固定されて動かない印象があるので、退屈とまでは言わないもののやや焦れる印象も受けた。
それだけにラストシークエンス、二人乗りで走るバイクを並走するタクシーから捉えたショット、花の小道具も相まって「これこれ」と言いたくなるちょっとした高揚感がある。映画内では録音ミスと説明されていたがぶつぶつと途切れる音声にも不思議な生々しさが宿る。またタクシーのサイドミラーに撮影者視点のキャメラが少しだけ映っているのも、最後の最後まで見返されるような感覚があった。
ガンビー教授

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