マクガフィン

トカレフのマクガフィンのレビュー・感想・評価

トカレフ(1994年製作の映画)
3.9
乾いた空虚なテイストでテンポが良いのは好みだが、繋ぎの繊細な箇所も省いているので分かりにくく、プロットの整合性も疑問。それでも徐々に贅肉を削いでいき、剥き出しになる骨のように男達と女の3人にスポットを濃く照らす世界観は唯一無二で、終盤のタガの外れたようなインパクトやパッションに圧倒される。冒頭の小銭とラストの薬莢が地面に転がる音によるトカレフの繋がり。カウンター数取器・信号機の押しボタン・銃のトリガーのボタンを連打することが駆りたたれているようにも。

終盤の過換気のように作品が息衝きながら一気にエスカレートすることが秀逸で、人間の情念に土地の匂いや空気感を描き、画面から醸し出される美しさは絶品に。淡い夕日の中で燃え上がる風車の美しさ、殺伐とした中でのどかな田園風景をサイレンを鳴らしながらフレームインする消防車の異様さ、赤とオレンジの色のコントラストでバイタリティやらエネルギーが充満し感性を刺激するようなエクスタシーを得られる。

女の死中に活を求めて現実を生きていく健気さが男達との対比に。殆ど削ぎ落した肉を切らせて骨を断つ退廃的な美しさ。銃の浸食により〈生の暴発〉と〈死の誘惑〉に苛まれた男同士の対峙、心の叫びが共鳴しない悲哀が何とも言えない。