イチロヲ

祭りの準備のイチロヲのレビュー・感想・評価

祭りの準備(1975年製作の映画)
4.0
物書きになることを夢見ている朴訥な青年(江藤潤)が、周囲の人間たちの悲喜を目の当たりにしながら、自分探しを続けていく。高知県中村市の小さな村を舞台にして、そこに暮らす住民たちの群像劇を綴っている、ATG謹製のヒューマン・ドラマ。

物語は至ってシンプルであり、生き方に模索している青年が、周囲への人間観察を自己実現に繋げていくというもの。青年の自分探しと母親離れが、オールスター出演により描かれており、個人的には杉本美樹と芹明香のキャスティングが魅力的。

癖のある人物たちが、癖のあるサイド・ストーリーを紡いでいく。ほとんどの人物の言動が、男と女のアレに至るところが滑稽であり、ヒロポン中毒になって帰郷してきた娘(桂木梨江)が、慰み者にされてしまうシークエンスに、虚無的感覚が集約されている。

息子を過度に束縛しようとする母親の心情が理解しづらいけれど、頼りになる長男が村からいなくなることの危機感を慮ると、まったく分からないわけでもない。ヒューマニズムのネガポジ要素を交錯させている逸品。
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