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蜘蛛の瞳/修羅の狼 蜘蛛の瞳のnetfilmsのレビュー・感想・評価

4.3
 椅子に羽交い締めにされ、ガムテープでぐるぐる巻きにされた男(寺島進)の姿。『勝手にしやがれ!! 英雄計画』のクライマックスのようなやる側とやられる側の構図。新島直巳(哀川翔)は6年前、娘を誘拐され無惨にも殺された。彼はその復讐を果たそうとしていた。右手にボールペンを取った男の「人違い」の文字。妻の紀子(中村久美)には仕事が残業だと嘘を付き、新島は復讐を完結させた。だが生きる目的を失い、ただ淡々とした自堕落な日々を送っていた新島はそんな矢先、同級生だった岩松(ダンカン)に再会する。岩松インターナショナルの会長になったかつての友人に誘われるままにバイト感覚で転職した新島は、ビジネスとして殺しを行っていく。ある日、新島は組織の上部・依田(大杉漣)に岩松の監視を命令される。岩松を裏切る自分に嫌悪感を抱きながらも、依田に説得され監視を続ける新島。やがて岩松が暴力団・金政会の会長と接触していることが発覚する。岩松が仕事にかなりのストレスを感じていることを知った新島はカタギになってやり直すことを進めるが、岩松はなかなかその踏ん切りがつかない。その事を隠した報告書を依田は信用し、新島は組織の真のボス・日沼(菅田俊)と会い、そこで金政会の会長を殺すように命令される。

 本来ならば『復讐』シリーズの最終話になっていた物語で、主人公は著しく主体性を欠いている。『蛇の道』では自らの復讐計画のために宮下を巧みに操りながら、最終的には娘を殺した人物たちを皆殺しにしたが、今作では逆に抜け殻のようになった新島が、周りの人間に言われるがままに殺しに手を染めていく。前作は新島がなぜ宮下を助けるのかという部分にミステリーが宿ったが、今作は寺島進を殺める描写をラストではなく、導入部分に持って来ている。彼を拉致し、椅子に縛り、口を塞ぎ、コミュニケーションの手段は筆談だけという状態で監禁し、最後には銃弾で殺める(死んだかどうかは問題ではない)。『勝手にしやがれ!!』シリーズ同様に、ここでもダンボールによるワンカットの暴力性が露わになる。役者の生理に対し、決定的なワンカットを映すために、黒沢はあえて軽いダンボールを凶器として用いるのである。中盤にはまるでキアロスタミの俯瞰ショットのように、かなりの高所にフィックスされたカメラが哀川翔と菅田俊のあまりにもバカバカしい追いかけっこを長回しで据える。16mmから35mmに転写されたフィルムは粒子の粗い映像となり、滑稽な人間の動きを更に面白おかしくコミカルに伝える。後半、死んだ娘の幽霊を妻が見るところは、『降霊』の原型と言っても過言ではない。心底ナンセンスな不条理劇は、抱いた女を躊躇なく殺める残虐さをもって提示される。獲物は決して釣れることはなく、妻と引き換えに生きがいを見つけた男の眼前には再び狂った日常が提示される。
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