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フランス軍中尉の女のTOTのレビュー・感想・評価

フランス軍中尉の女(1981年製作の映画)
3.8
虚構が現実を侵食する。女は目覚めて男が取り残される。

イギリス南西部のドーセット、ライム・レジスで撮影される映画「フランス軍中尉の女」。
19世紀半ば、フランス軍中尉の愛人と蔑まれる女サラと、婚約者がありながら彼女に惹かれる考古学者チャールズ。
現代でその2人を演じ、互いに家庭を持ちながら不倫関係になるアンナとマイク。

物語は、劇中劇と現代を交互に映し出しながら2つの恋を同時進行させるが、劇中劇のレイヤー、サラやチャールズの物語が、次第に現代のアンナとマイクのレイヤーを侵して行き、境界が曖昧になっていくのが面白い。
ジョン・ファウルズの同名小説にハロルド・ピンターが現代パートを加えて入れ子構造にした脚本が素晴らしい。

物語の求心力になるのはサラのキャラクター造形と、社会背景。
ヴィクトリア時代、良家の子女でない者が職を得ようとすればロンドンに出て工場出て働くか娼婦になるか。
都市部よりもモラルに厳しく古い因習と戒律が残る地方の村。
貧しく持たざる者であるサラは、絵の才能がありながら職も無く結婚もできず、荒波が寄せる岬の突端で愛する人を待ち続ける。
彼女は何故フランス軍中尉の愛人と呼ばれるに至ったか。
有り体に言えば面倒くさいヤバそうな女であるサラだけど、終盤彼女によって明かされる真相は、女性であればちょっと共感してしまうというか、現代的かつ進歩的な女性の在りようを考えさせられる。

物語の進行にあわせ、サラとアンナは徐々に乖離していき、チャールズとマイクは同化していく。
サラとアンナ、違うキャラクターを演じるメリル・ストリープの演技力は見事。
でも最近テレビ番組で役になりきれなかった唯一の役と彼女が明かしてた。
うん、複雑だよね、この役。
http://variety.co.jp/archives/8387
対するジェレミー・アイアンズも微妙な表情の変化を持たせつつ、劇中劇でも現代でも振り回されたおしてて見事に哀れだった。
この役が見事すぎたから、今作以降で女性に振り回される役がやたら来るようになったのではと思うほど。

マイクの最後の台詞はロマンチック過ぎだけど、見終えて数日経っても余韻あり、噛めば噛むほど美味しい映画。
原作は残念ながら絶版だったので図書館で借りました。
カレル・ライス監督の過去作もいつか追いたい。
ああ、面白かった。
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