ろ

ガスパール/君と過ごした季節(とき)のろのレビュー・感想・評価

5.0

「朝日が好き?それとも夕陽?」
「朝日だ。光が優しいから」
「僕も夜明けが好きだ。ママが去ったのが夕暮れ時だったから。カバンを持って何度も振り返り、男に促されて僕に手を振った。僕にとって夕暮れは別れの時だ」

”名はジャンヌ。無一文。よろしく”
コートの襟に安全ピンで留められた一枚のメモ紙。
息子に置き去りにされたおばあちゃんはあてもなくトボトボと歩き続ける。
そんな彼女を見つけたのは、赤いオープンカーにボロボロの椅子を山ほど積んだロバンソンだった。

ロバンソンと暮らすガスパールは、何の相談もなしに勝手に連れてきて・・・とジャンヌを疎む。やがてガスパールはジャンヌを再び置き去りにしようとするけれど・・・

息子に、母に、そして妻に捨てられた三人は、誰かが捨てていった家に住み、誰も座らなくなった椅子を修理しながら、いつか食堂を開こうと夢を語る。

忍び込んだ廃屋の壁を撫でながら、かつてそこで暮らした家族を想う。そして蘇る妻との思い出・・・
桟橋に寝そべるガスパールは力なく海にビールを注ぐ。
「元気か?」としつこく声を掛けるロバンソンのコートがバタバタとはためいている。

「おはよう、アフリカ!おはよう、スペイン、イタリア、モロッコ!」
「おはよう、向こう側の皆!」
「おはよう、世界の人々!」
「おはよう、おばあちゃん!」
「おはよう、蜂蜜と僕の庭、そして僕の家!」
灯台がまだぼんやりと辺りを照らす、淡い紫色の夜明け。
静かな海に大きく手を振りながら二人は叫ぶ。
「おはよう、僕のベッド!」
「おはよう、ガスパール!」

ドラマ(映画)を見ながら死んだ人の数を数えるおばあちゃんは、油と間違えて洗剤で肉を焼いてしまう。
レコードをかけながらやさぐれるガスパールに「またお酒を飲んで、目を溶かすのね」とそっと呟く。
浜辺に並ぶカラフルな椅子とテーブルからは、まだ見ぬお客の声がする。

傷ついた心を癒しながらともに暮らした数日間。
まだ叶っていない夢、見つからない居場所を探し求めて、今日も海を見る。
楽しくも切なく聴こえるミシェル・ルグランの音楽が心地いい。
夏の夜にしっとり観たい映画だなぁと思った。
ろ