柊渚

リトル・オデッサの柊渚のレビュー・感想・評価

リトル・オデッサ(1994年製作の映画)
4.6
暴力、殺人、愛…
ブルックリン南端に位置するロシア系移民街のリトル・オデッサと呼ばれる厳しく閉鎖的な社会の中で、これらが複雑に絡み合い、兄弟愛やある家族の確執がどこまでも冷たく淡々とした視点で描かれています。
それぞれが手にした拳銃が、悲劇としか言いようのない結末を導く哀しいお話。


孤独な殺し屋のジョシュアが、二度と戻らないと決めた故郷へ依頼のために舞い戻る。ジョシュアを慕っている弟のルーベンは帰郷した兄に喜ぶが、厳格な父親は殺し屋になったジョシュアのことを許しておらず、家に立ち入ることやルーベンとの接触を断固として許さない。しかし、彼らの母親は脳腫瘍を患い、余命残り僅かという状態におかれていた。


故郷や家族を捨て殺し屋になった兄役にティム・ロス。
父親の暴力に耐えながら病床の母親を看病する弟役には美少年だった頃のエドワード・ファーロング。
この二人の哀しき兄弟愛が泣けます…( ; _ ; )

殺し屋になった自分を今でも純粋に慕ってくれる弟の存在が内心すごく嬉しいはずなのに、照れ隠しからついつい蹴りを入れたり突き飛ばす真似をしちゃう兄の姿や、兄の真似をして同じ動作を繰り返す弟がものすごく可愛くて微笑ましい。しかもこの弟がエドワード・ファーロング(重要)。

弟ルーベンは殺し屋としての兄の冷酷な一面を目の当たりにしても、兄を慕い助けようとするなど、健気さと心優しさを兼ね備え、エディ特有のどことなく翳がある儚げで危うい美しさを漂わせる。

一方、兄ジョシュアは冷徹な目をしているけれど、弟と母親に向ける眼差しだけはとても優しい。また、父親に殴られて腫れた弟の痛々しい頬を見るなり、ほとんど感情を表に出すことがないジョシュアが「弟を殴るな」と怒りを露にして父親に殴りかかるシーンは印象的でした。

この二人の関係やじゃれ合ったりする微笑ましいシーンは兄弟もの好きにとってはストライクで最高なのですが、こんなふうに随所で主人公と家族との描写が緻密に描かれているからこそ最後の悲劇が深く胸に突き刺さる…(゚´ω`゚)


物語はあくまでも淡々と、言うなれば地味な展開が続くものの、ラスト間際の銃撃戦のあの張り詰めた緊張感と不吉になびく白いシーツには息を呑まずにはいられなくて、銃声一発がひどく重たく静かな風景に不気味に響き渡る。
さらには哀しげな旋律を奏でる聖歌が物語の哀愁を煽り、母と子が寄り添うシーンはとても心地よく神聖なものに思えて涙が出てきました。


たとえ悪人やら人殺しだと言われようと、弟と母を愛する気持ちにだけは嘘をつけなかった。

哀しい物語と冬の寒々しい雪景色が相まって、一層の寂しさが身に沁みる作品。兄弟愛がひたすら美しくもあって同時に切なくもあるのですが、また観たくなるんだろうなぁと思います。素晴らしかったです。
柊渚

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