カタパルトスープレックス

戸田家の兄妹のカタパルトスープレックスのレビュー・感想・評価

戸田家の兄妹(1941年製作の映画)
3.2
小津安二郎監督の上流家庭の家族ドラマです。この作品が太平洋戦争の開戦の年に作られたと思うと、色々と考えさせられる作品だったりもします。

内容的には「家族の絆」なので戦後の『東京物語』(1953年)に通じるものがあります。経済界でも知られる存在の戸田進太郎(藤野秀夫)が亡くなった後、兄妹が母親(葛城文子)と末娘の節子(高峰三枝子)の面倒を見ることになるのだが……という話です。

戦中の上流家庭を描いているのですが、家が大きいこと!前作『淑女は何を忘れたか』(1937年)に続いて衣装の提供は三越。いい着物を皆さん着てらっしゃる。小津安二郎作品は戦後も登場人物たちはいい着物を着てますよね。これからアメリカと戦争するのに子供は英語を勉強している。

次男の昌二郎(佐分利信)が本作の鍵を握るのですが、中国にいる。そう、当時は満洲国がありましたから。小津安二郎監督自身も前作の公開後に召集され中国に渡り、帰国後に本作を撮影、公開しています。その影響もあるのでしょうね。その昌二郎が最後のカタルシスを作り出しますが、明確なカタルシスがあるのも小津安二郎監督作品としては珍しいですね。

太平洋戦争開戦前夜を描いている本作の上流階級は本当に豊かです。それがたった4年で敗戦してボロボロになってしまうのですから日本がどれだけ無謀な戦争をやったのかがわかります。

保存状態があまりよくなく、音声も聞きづらいです。テーマも撮影技法も『東京物語』のプロトタイプとしては興味深くはあるのですが、戦後の小津安二郎監督作品にはまだ及ばないというのがボクの見立てです。