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アウトレイジ ビヨンドのnetfilmsのレビュー・感想・評価

アウトレイジ ビヨンド(2012年製作の映画)
4.0
 水没した車がレッカー車の縄で引き上げられると、水中深くに沈められた車の隙間からは夥しい量の水が漏れる。舗装された岸壁に引き上げられた車からは、潜入捜査をしていた組織犯罪対策部の山本刑事(貴山侑哉)と政治家の愛人のホステスが見つかる。『アウトレイジ』で山王会浮上のきっかけとなった抗争事件から丸5年、政界にまで影響を及ぼすようになった山王会の2代目会長加藤(三浦友和)は若頭に大友組の金庫番だった石原(加瀬亮)を据える。古いやり方でしかシノギを回収出来ない古参幹部と経済ヤクザである石原の対比は象徴的だ。加藤のボディガードだった舟木(田中哲司)も事実上のNo.3にのし上がり、警察内での立身出世を目論む組織犯罪対策部(マル暴)配属の刑事・片岡(小日向文世)は山王会の力に苦虫を噛み潰したような表情で、ハイエナのように暗躍する。富田(中尾彬)が白山(名高達男)と五味(光石研)との会合の席で加藤のある疑惑を噴出させた現場に、片岡は全てを知っているかのように手を回すのだが、同時に彼は元村瀬組若頭の木村(中野英雄)や元山王会池元組傘下大友組組長大友(ビートたけし)をも焚き付ける行動に出る。だがその時点で大友はまだ刑務所の中で表立った行動は出来ない上に、立身出世のためには平気で人を裏切るヤクザの論理にほとほと嫌気が差していた。

 オープニングの水没した車両、片岡が富田を焚きつけた柳島克己の印象的な空撮、またはその後何度も出て来る不気味な車列の追跡場面でも登場する車の黒光りする発色が印象的だ。今作の起承転結のほとんど多くの場面が、この黒光りする車の登場を起点とするのも例外ではない。まるで「ヤクザは白い車なんかに乗らない」と言い切りそうな北野武本人は、だが黒ではなくシルバーの車に乗る。この黒と銀の微妙な差異は、今作において大友がホテルのエレベーター内で組員(山中崇)にドスで刺されることにも呼応する。なぜ組員ははじきで頭を狙わないのか?前作のラスト、木村にどこから持って来たのか不明なドスで刺された際も、呻き声を上げながら苦しむが当然、ドスでは簡単には死ねない。この事実は他の組員たちの多くがこめかみに撃ち込まれた銃弾で即死していることと比較すると、得意な事象として浮かび上がる。しまいには石原の最期も頭部への軟式球による損傷である。片岡の誘発に端を発した大友の復讐劇は、彼が簡単に死ねないことで逆にその特異性が露わになる。不気味な登場をした韓国マフィアと海外へ逃亡の流れ(『BROTHER』と同じ構造)を断ち切るのは、皮肉にもかつてカッターで顔に二本の致命的な切り傷を与えた木村であり、5年前にはこの惨禍とは直接関係なかったはずの嶋(桐谷健太)と小野(新井浩文)の無残な死に他ならない。腹に痛みを抱えた男は、相手の下腹部を狙い見事な私怨を果たす。
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