八木

アウトレイジ ビヨンドの八木のレビュー・感想・評価

アウトレイジ ビヨンド(2012年製作の映画)
4.3
最新作に向けて予習した。
僕がもしいい女だったら、この映画を観終わった後は、頬杖をついて鏡を指でなぞりながら「男ってほんとバカ…」と呟くと思った。
前作がほぼ何も言ってない映画だったのに対して、2作目ではヤクザが持つ、一般人にとって空中戦でしかないよくわからないしがらみにただただ振り回され続けるという、”男の中の男”をコメディにすることがテーマになってたように思います。この場合の「コメディ」ってのは、ゲラゲラと笑えるというのではなくて、本人たちはヤクザの世界に生きる人間として真剣すぎるほど真剣なのに対して、関係のない水域で生きている観客からすると、それを滑稽に感じてしまうというような意味です。
加瀬亮演じる石原は、武闘派でなくてマネーゲームとビジネスセンスでのし上がったインテリで、金を生む存在だから若くして重宝され、出世もしてしまう。年寄りたちはそれが疎ましい。また、『盃』というよくわからないシステムによって、兄弟は平行に、親子は垂直に、関係性を明白にしてしまうので、年齢のギャップによる上下関係が成立しなくなる。ものすごくわかりやすい上下左右の関係の構築なのに、その世界に生きてる人間にとっても、「価値観の違う年下が偉そうにしてるとなんか腹立つ」ってことに抗えないんですね。
ストーリーは基本的に、ヤクザの世界におけるよくわからないルールから逸脱しようとする人間を、よくわからないルールに則って裁かれながら進んでいきます。始めからずっと、仁義やメンツや慣習が含んでいる矛盾を自分の中でどう処理するのか、登場人物は苦しみ続けて大体死ぬことになるのですが、こっちとしては『お前らが選んでその生き方してんだろうに』とずっと思ってるんです。だから、出てくる登場人物に対して大体同情できない。まあ死んだってしゃあないんじゃね、と思ってしまう。この距離感がコメディ的だと感じました。
主役のビートたけし演じる大友は、唯一この矛盾に対して「メンドクセエ」って感じの、一般的感覚を持っていて、それがラストのある行動につながっていくと思うんですけど、見てて一番カタルシスありました。理解しがたいルールの上で、初めて一般的感覚を持った殺人を見た時に、ヤクザ的なものに対する冷めた監督の視点を見た気がします。前作は主役がビートたけしであることについて、演技力の不足を感じて大きな不満になってたんですけど、この『ビヨンド』はヤクザに大して冷めた視点を持つ態度が、ビートたけしの力無さと合わせてばっちりはまってると思いました。
最終章はどうなっているのか、見てきたいと思います。
八木

八木