EmiDebu

男はつらいよ 翔んでる寅次郎のEmiDebuのレビュー・感想・評価

4.5
久しぶりに男はつらいよ周回シリーズ再開。

よくもまぁこんな悲しい話を毎度毎度用意するものだ。人々の営みの中にある美しさや悲しさこれは映画であって自分の話であり、あなたの隣人の人生の話でもあるのかもしれない。

旅先で出会う寅次郎とひとみ。ひとみは結婚を前にマリッジブルーになり1人訪ねた北海道で寅次郎と会った。そんな贅沢な悩みはいけないと寅次郎が話すもさくとおよねの話が良い。貧乏な家の娘が親の生活を支えるために金持ちの嫌なジジイのもとに嫁ぐ話。それでももさくとおよねは愛し合った。身体はあの人のものでも心はあなたのものよと。悲しい話を聞いたひとみが口を開く。「およねさんが羨ましい。そんなに好きな人に出会えたんだもの」

この辺りの男はつらいよシリーズはやけに女性の社会的立場の弱さがテーマに上がる気がする。結婚式当日、お色直しで化粧をされているときにひとみはこう思った。
「私、女って悲しいなって思ったの、
 だってほんとにこれでおしまいって感じな
のよ。
 これからすばらしい人生が広がっていくな
んてそんな幸せな気分になんかなれないの
よ」
家同士の都合や男の都合でついに最後まで自分の思いを口に出せなかったひとみは結婚式場を逃げ出す。男としてはこの新郎の邦男の恥ずかしさややりきれなさも分かってしまう。だからこそその後の邦男の心からひとみを思う様子に強く胸を打たれる。

桃井かおりの捻り出すかのような喋り方がこれまたいい味を出していて観終わる頃にはすっかり虜になっている。黄色いハンカチの時はそんなでもなかったんだけど、この演技は良かったなぁ。

ひとみの気持ちを動かすのはたった一つの言葉だった。ひとみはそれだけを求めていたのだ。形式的に開かれる厳かな結婚式なんてひとみには必要なくて、本当に求めていたものはたった一つの言葉だったのだ。

寅次郎が失恋するのはもちろん悲しい。でも今作のメインはこの若い2人の恋物語であって、だからこそ邦男の歌う歌詞の一つ一つに共感しみんな涙を流すのだ。

最近、暇な時に脚本を考える。何も作品を作るってわけじゃない。ただ自分だったらどんな話を作るだろうと考えてみる。しかし、もちろん2時間もの作品をそんな空想で完結させることなどできないし、ましてや「何か違う」と思いながら物語を進めていく。どこか劇的な、それでいて数奇な人生を描こうとしてしまう。それなのに男はつらいよときたら、こんな、どこかよ街の誰かの話でこれ以上なく面白いんだもんなぁ。
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