青山祐介

パレルモ・シューティングの青山祐介のレビュー・感想・評価

パレルモ・シューティング(2008年製作の映画)
4.2
『皆、撃たれて死んでも血が出ない。この矢にはまるで実体がない』―『そうね、これは15世紀の絵画よ、画家はパレルモの出身、名前は不明だけど隅に自画像が』―『筆を持っている男か? イカしている、カメラ目線だな』―『私たちを見ているの …』

パレルモはシチリア島のティレニア海に面した港町です。「死の勝利」はパレルモのシチリア州立美術館(アバテッリス宮殿)で見ることができます。スクラーファニ宮殿の壁面から剥がしたフレスコ画を4枚のパネル装にして展示しています。フラヴィアという女性の象徴であり、インスピレーションのもととなった絵画、アントネッロ・メッシーナの「受胎告知のマリア」もここにあります。
ヴェンダースのインスピレーションの源は、「都市」の文化、歴史、人々を抜きにして語ることはできません。それは単に影響というものにとどまらず、彼の映画製作と深く結びついているからではないでしょうか。<ロード・ムービー>の集大成といわれる「さすらい(1976)」から「パリ、テキサス(1984)」において新しい境地を啓いたその後の作品は、あえて名づけるとするならば<シュタット(都市)・ムービー>と呼びたくなるような都市の映像世界を創りあげていきます。「パレルモ・シューティング(Palermo Shooting)」は,その物語の舞台にしても、また台詞や登場人物の造形にしても、次なる世界への出発となる作品に思えます。これからのヴェンダースが楽しみです。
≪シュタット・ムービー≫にはそれぞれおなじみの登場人物があらわれます。「ベルリン天使の詩(1987)」ではピーター・フォーク、「リスボン物語(1995)」ではマノエル・オリヴェイラ、そして「パレルモ・シューティング(2008)」ではミラ・ジョヴォヴィッチ。
≪象徴≫:都市と物語を象徴する人物が登場するのも<シュタット・ムービー>の特徴です。天使 ― 詩人フェルナンド・ペソア ― 死神フランク。
≪聖母マリア≫:空中ブランコ乗りのマリオン ― テレーザ・サルゲイロ ― フラヴィア。
≪音楽≫:クライム・ザ・シティ・ソリューション ― マドレデウス ― トーテン・ホーセン/ファブリツィオ・デ・アントレ/イルミン・シュミット。
≪愛≫:都市と歴史 ― 映画 ― 写真。
≪主題≫:デュセルドルフとパレルモ/写真と絵画/加工と修復/デジタルとアナログ/都市の生と死/人の生と死/光と影/画家の眼とカメラマンの眼。
≪主人公≫:そして主人公は「道に迷った男(カメラマン)」とカメラ目線の画家。

死神の放つ矢には実体がありません。しかし実体のない矢はライカを射抜き、穴をあけます。それは画家によるカメラマンへの挑戦なのか、あるいは警告なのかもしれません。
『画家は…対象との自然な距離を観察する…カメラマンは事象の組織構造に深く侵入してゆく … 画家によるイメージが全体的なものであるのに対し、カメラマンのイメージは、ばらばらな寸断(あるいは加工)されたものであり、その諸部分は、のちに、ある新しい法則にしたがって集められる』ヴァルター・ベンヤミン「複製技術時代の芸術作品」
青山祐介

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