茶一郎

ユナイテッド93の茶一郎のレビュー・感想・評価

ユナイテッド93(2006年製作の映画)
4.3
 (不謹慎ながら)「観た後は飛行機に乗れなくなるモノ」の最高傑作『ユナイテッド93』。
 アメリカと世界を分断させた「9.11」・「アメリカ同時多発テロ」において、唯一、目標物への突入に失敗した「ユナイテッド航空93便」の中で何が起こっていたのかを描く実録モノです。
 
 この映画が「航空パニックモノ」のジャンルの枠を飛び越えたのは、大いにジャーナリスト出身、『アルジェの戦い』のトップ・フォロワーであるポール・グリーングラス監督の「事件を再現してやろう」という徹底的な調査力と再現力、素人役者演出力、そして実録映画監督御用達バリー・アクロイド氏の臨場感溢れる撮影力によるものです。
 タイトルから想起される飛行機内でのテロリストと乗客の争いより、情報が錯綜する事件中の管制官、軍部の混乱っぷりを徹底的に描いた事が物語に異様な雰囲気を与え、何より「あの瞬間」を当事者と共有させられる中盤のあのシーンには戦々恐々です。

 「血の日曜日事件」を扱った監督の出世作『ブラディ・サンデー』から後の『キャプテン・フィリップス』まで、事件の被害者はもちろん加害者の背景を描く姿勢に、グリーングラスのジャーナリストとしての誠実さを痛感させられます。
 
 混乱する現場において全ての登場人物に突き刺さる「行動が必要だ」という言葉。この『ユナイテッド93』は、まさにその「行動」をした実在の英雄への鎮魂歌であり、グリーングラスが一貫して描く「分断された世界」に生きる我々観客に「行動を起こせ」と呼びかけます。
茶一郎

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