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黄昏のtakのレビュー・感想・評価

黄昏(1981年製作の映画)
4.2
自分が後期高齢者と呼ばれる年齢まで映画ファンを貫いていたら、もう一度観たいと思っている映画がある。マーク・ライデル監督の「黄昏」だ。ヘンリー・フォンダ、キャサリン・ヘップバーンという往年の大スターと、ジェーン・フォンダ共演。実生活で不仲だった時期もあるヘンリーとジェーン父娘。この映画でヘンリー・フォンダは念願のアカデミー主演男優賞を受賞し、これが遺作となる。いろいろと現実と重なることが話題となった作品だ。

この映画が公開されて、世間から高い評価を受けていた頃、僕はまだ中学生だった。あの当時観てもきっとこの映画の良さは分からなかったと思う。でも映画雑誌を隅から隅まで読んで貪欲に知識を貪っていたから、この映画にまつわるいろんな事柄だけは知っていた。その後、テレビ放送で断片的に観ていた気がする。でも年寄りの仲直り映画に自分は感動できないんじゃない?と思っていたのか、初めてきちんと観たのは社会人になってからだった。

中坊の頃仕入れた予備知識を、映像が超えてきた。なんだよ、もっと早く観ておけばよかった。ニューイングランドの美しい自然の風景と重なるデイブ・グルーシンの音楽。オープニングタイトルだけでも至福の数分間。デイブ・グルーシンはライブでこのオープニング映像を流しながらタイトル曲を演奏していたと聞く。オーケストラによるスコアだけでなく、ピアニストとしての本領も発揮している。

この映画が主題として示しているのは、世代間のギャップ。とうてい分かり合えると思えない深い溝がある。娘とその婚約者が旅行の間だけとの約束で老夫婦に生意気な少年を預ける。80歳の気難しい祖父と孫の噛み合わない会話。この映画は言葉をうまく使って世代のギャップを表現している。

印象的なのは「キスする」の表現。少年はsuck faceと表現する。おじいちゃんは理解できない。直訳すると"顔を吸う"になっちゃうけれど、"長い時間ディープキスをする"めいた意味らしい。これは当時映画雑誌の隅っこに映画で使われた英語表現を紹介したコーナーがあって、そこに書かれていたことでもある。大人になってこの映画を観て、それを思い出したのも嬉しかった。

スティーブンソンの少年向け冒険小説「宝島」も、世代のギャップを表現する小道具として巧みな使い方をしている。少年と老人が釣りで心を通わす様子に、温かな気持ちになる。老人と孫の関係が、旅行から戻った娘との関係にも影響していくクライマックスに感動した。

この映画のヘンリー・フォンダの年齢に自分がなったら、どんな老人になってるんだろ。葬式でこの映画の主題曲流してくれ、とか言ってるかもしれないw
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