Jeffrey

ホテル・ルワンダのJeffreyのレビュー・感想・評価

ホテル・ルワンダ(2004年製作の映画)
4.0
「ホテル・ルワンダ」

〜最初に一言アフリカ大陸と言えば飢餓と貧困の代名詞になってしまった国と言うイメージがあるが、アフリカ民族、音楽、風土、文化、どれをとっても素晴らしいものがある。そのアフリカに太陽の光が戻るまで戦い続けた1人の男と、そこにフォーカスした監督の思いが詰まった傑作である〜

冒頭、1994年、ルワンダの首都キガリ。ベルギー系の高級ホテル、ミル・コリン・ホテルで働く有能な支配人。ツチ族や穏健派のフツ族、紛争、カメラクルー、虐殺、死体、手榴弾、避難民、政府、大統領暗殺。今、家族を守る時…本作はベルギーが行った分断政策によって地獄のような紛争を起こらせてしまった悲惨な悲劇をテリー・ジョージが2004年に伊、英、米、南アフリカ合作で監督した実話ベースもので、主演を務めたドン・チードルがアカデミー賞にノミネートされたことにより配給権が高騰して、日本で公開が一時的に見送られた作品であるが、映画ファンたちの署名運動により見事2006年に劇場公開を果たした傑作映画である。このたびBDにて久々に鑑賞したが素晴らしい。ルワンダで勃発したフツ族とツチ族の争いの中を取り持ったホテルマンのポール・ルセサバギナの実話を基に映画化されたものである。

本作に出てくるミル・コリン・ホテルは国際ビジネスホテルの格を誇るキガリきっての有名ホテル。宿泊料金は1泊125ドルで、これはルワンダ人の平均年収の半分だそうだ。それとフツ族の民兵グループとは、フツ族至上主義の急進派の民兵組織インテラハムェのことであり、大虐殺の2年以上前から、ツチ族や穏健派のフツ族の名をリストアップし、家を焼き討ちしたり、手榴弾を投げつけたりしている。そしてラジオと言うのは大虐殺のプロパガンダ専門局RTLMの事である。それにしてもベルギー人によって民族を分別されるのってとんでもなく屈辱的だと思う。もし日本がそんなことされたら許せないだろう。前振りはこの辺にして物語を説明していきたいと思う。

さて、物語は1994年、ルワンダの首都キガリ。ベルギー系の高級ホテル、ミル・コリン・ホテルで働くポールは有能な支配人だ。通常では手に入らない高級なお酒も、1本1万フランもするハバナ産の葉巻も、様々なルートを駆使して手に入れては、一流ホテルに集まるゲストを満足させている。ビジネスは良好だったが、この頃ポールは不穏な空気を感じていた。多数派のフツ族と少数派のツチ族が長年争ってきたルワンダでは、3年間続いた内戦がようやく終息し、フツ族とツチ族の間に和平協定が結ばれようとしていた。しかし、フツ族の民兵グループが市内を威圧的に練り歩き、ラジオでも公然とツチ族非難が繰り広げられていた。フツ族ではあるが穏健派のポールは民兵たちのやり方を嫌悪していたが、それを表に出すわけにはいかなかった。なぜなら彼の妻はツチ族だからだ。

ポールが働くミル・コリンには国連の平和維持軍が駐在し、ルワンダ政府軍のビジムング将軍も足繁く訪れるなど、ここにだけは平和があった。万が一のことが起こった場合には家族を助けてもらおうと、彼はビジムング将軍にも日ごろから贈り物を欠かさず、良好な関係を築いている。この日ホテルでは、ルワンダの平和状況が国連のオリバー大佐から報告し、ジャックダ・グリッシュを始めとする各国の報道陣がそれを映像に収めていた。報道陣をもてなしたりと忙しく働くポール。そこに妻タチアナの兄夫婦が突然やってくる。信頼できる民兵の友人から、ツチ族の大虐殺が始まると聞いた。今すぐタチアナを連れて出国させてくれと言う義兄。しかし、世界が見ている中での虐殺などありえないと思ったポールはとりあえず、義兄夫婦を返してしまう。その晩、ホテルから帰ろうとした彼は、市内で火の手が上がっているのを見る。

家に着くと、妻と子供、そして家を焼き討ちされ、信頼できるフツ族はポールしかいないからと命からがら逃げてきた知人たちが暗闇の中に身を潜めていた。フツ族大統領がツチ族に殺されたと言うラジオの放送にポールは耳を疑う。フツ族大統領がツチ族と平和協定に応じたのにそんな事はありえない。しかし、大統領が何者かに殺されたのは事実だった。そして待ち中では、ラジオの報道を鵜呑みにしたフツ族が、武器を手にツチ族を襲撃し始めていた。翌朝、ポールの家に兵士がやってきて、彼が前に働いてたディプロマト・ホテルを暫定内閣の基地にするのでホテルの鍵を開けろと命令する。家に隠れていた人々は見つかり殺されそうになるが、ポールが渡した多額の賄賂で何とかその場は切り抜けられた。行き場のない家族と隣人達を連れ、仕方なくポールはミル・コリンに向かう。

カメラマンのダグビッシュは狂乱と化した町で精力的に取材を続けていた。彼のとってきた映像を見てショックを受けるものの、これが世界で放映されれば国際救助が来ると確信するポール。しかしダグリッシュの答えは違った。世界の人々はあの映像を見て怖いねと言うだけでディナーを続ける。ダグリッシュはオリバー大佐にもカメラを向けるが、大佐はわれわれは平和維持軍だ。仲裁はしないと繰り返すことしかできない。海外資本であり、国連兵士もガードするミル・コリンには兵民たちもうかつには手が出せず、ホテルは難民キャンプのような様相を見せ始めていた。困惑するポールに、オリバー大佐はヨーロッパ諸国が介入の準備を進めており、数日でルワンダに到着すると話す。数日後、ポールたちの下に待ちに待ったベルギーの国連軍が到着した。しかし、それはルワンダ人を助けるためではなく、犠牲者の出ている国連兵士や職員、そしてルワンダにいる外国人を退去させるためのものだった。それは、世界がルワンダに背を向けたことを意味していた。

ポール達は、今や800人に膨れ上がった避難民たちを守るために、あらゆる手を尽くしていた。ミル・コリンの親会社サベナのティレン社長に電話してフランスに連絡して政府軍を止めてほしいと頼み、避難民たちには海外の要人にコンタクトを取るように指示を出す。踏み込まれても居場所がわからないように部屋のナンバープレートも全て外した。ビジムング将軍や政府軍兵民たちにはせっせと酒を振る舞い、ホテルを守った人には、サベナ社が報酬を出すと言っている。ここで起こる事は、アメリカがスパイ衛星で見張っている等のハッタリで、ビジムング将軍の関心をホテルに惹きつけておくことを忘れない。しかし、危険はすぐそばまで忍び寄ってきていた。兵民グループのリーダー、ジョルジョと、あったポールはホテルに近寄るなとビジムング将軍に言われているが、もうすぐ俺たちが仕切るようになる。

ホテルにいる重要な裏切り者を渡せば、身内は救ってやってもいいと言われ、絶望的な気持ちになる。いつしか、ホテルの難民は1268人に膨れ上がっていた…とがっつり説明するとこんな感じで、1994年のアフリカのルワンダで長年続いていた民族間の争いが大虐殺に発展し、100日で100万人もの罪なき人々が惨殺され、アメリカ、ヨーロッパ、そして国連までもが第3世界の出来事としてこの悲劇を黙認する中、1人の男性の良心と勇気が、殺されていく運命にあった1200人の命を救うと言う話だ。本作の主人公はアフリカのシンドラーと呼ばれ、ルワンダの高級ホテルに勤めていた人物だ。命を狙われていた貴ツチ族の妻を持つ彼の当初の目的は、なんとか家族だけでも救うことだったそうだ。ところが、彼を頼りに集まってきた人々、そして親を殺されて孤児になった子供たちを見ているうちに彼の中で何かが変わっていったのだろう。

この人たちに背を向けて、その思いを一生引きずって生きていくことができないと立ち上がった彼は、たった1人で虐殺者たちに立ち向かうことを決意。行き場所のない人々をホテルに匿い。ホテルマンとして培った話術で機転だけを頼りに、虐殺者たちをうまく翻弄し、そしてときには脅かしながら、1200人もの命を守り抜いた。本作は、家族4人を救うことを心に決めた1人の父親が、1200人を救うヒーローへと飛躍する奇跡の過程を描いた実話である。2004年12月、米国の劇場数館で公開された「ホテル・ルワンダ」は瞬く間に評判となり、翌月には2300館で拡大公開される大ヒット作品になったのは有名な話だ。今年最もパワフルな感動作、心をつかむ物語など批評家の絶賛を受け、「アビエイター」「ミリオンダラーベイビー」などと並びに2004年度アカデミー賞の3部門(脚本、主演男優賞、女優賞)にノミネートされる快挙成し遂げる。

確か2004年で主演男優賞受賞したのはレイチャールズを演じたジェイミー・フォックスだったような気がする。そして助演男優賞は「ミリオンダラーベイビー」のモーガン・フリーマンだったような…。黒人が多く受賞した年だ。さて、ここで少しばかりルワンダの歴史を自分が知っているのだけ語りたいのだが、現在のルワンダの地は、元来、様々な民族が混在して暮らす領域であったとされている。太湖地域の肥沃な大地の中で、農耕あるいは牧畜に重きを置く生業集団が現れ、それらが後にフツ族、ツチ族と呼ばれる民族アイデンティティーを形成していくのは、18世紀以降の王宮の影響力の拡大に伴うそうだ。1860年にツチ族の王ルワブギリが誕生するとその階級分化はますます激しくなり、ツチ族は政治的、軍事的、そして経済的にも強い力を有するようになる。

1895年にルワブギリが死亡すると王朝は混乱し、力を失った党派のリーダーたちは前年にルワンダを訪れていたドイツ人に保護を求めた。1897年、ドイツは総監督部を設け、ルワンダの間接統治に着手。ドイツの後ろ盾を得たツチ族は、内部紛争とフツ族への支配を続ける。第一次世界大戦後、国際連盟はルワンダを戦利品としてベルギーに与えた。国家としてまとまっていたルワンダを分裂させるためにベルギーが利用したのはフツ族とツチ族の容姿の差。黒い肌に平らな鼻と厚い唇、そして四角い顎を持つフツ族に対し、薄めの肌に細い鼻、薄い唇に尖った顎と、よりヨーロッパ人に近い容姿のツチ族をベルギーは経済的にも教育的にも優遇。1933年から34年にはすべてのルワンダ人をフツ族、ツチ族、そしてトゥワ族に分類し、人種が記されたIDカードまで発行する。ほとんどのフツ族とツチ族はそれでもまだ良好な関係を保っていたが、小学生にまで人種差別の思想が叩き込まれていくうちに、かつて統一されていた国家は急激に崩壊していった。だから冒頭にも話したようにベルギーの罪は深いと…。

1950年代になると、国連からの圧力もあり、ベルギーはルワンダに民主的な政府を作るべく改革を始めるが、ツチ族の伝統主義者たちはそれに反発。ベルギーは1959年にフツ族の反乱を後押ししてかつての盟友を権力の座から追いやった。1962年には選挙が行われ、ベルギーからの独立とフツ族支配へと進んでいく。フツ族のジュヴェナル・ハビャリマナ将軍が73年に軍事クーデターを起こして大統領に就任し、自党以外による一切の政治活動を弾圧。ルワンダを改革するようにとの国連の圧力に1990年に屈するまで圧政を強き、国内には無力と腐敗がはびこった。同1990年、ルワンダ国外に亡命していた主にツチ族中心のグループがルワンダ愛国前線(RPF)を結成、ウガンダ側からルワンダに侵攻して内戦が勃発した。1992年にハビャリマナ大統領はRPFと和平の話し合いを始めるが、フツ族至上主義者たちはこれを裏切りと捉えた。

94年4月6日、ハビャリマナ大統領とブレンディの大統領を乗せた飛行機は撃墜される。大統領の側近の急進派による暗殺と言う説もあるが、彼らはそれをRPFの仕業にすり替え、同夜、あらかじめ計画されていた政権内のツチ族及び穏健派付属の高官たちの処刑が始まるまでその後三日間で生県内のあらゆる階級のツチ族やフツ族穏健派も処刑されるが、それだけでは終わらず、インテラハムェ=共に戦う者として知られるフツ族の民兵グループが国中に繰り出して惨殺を開始。3ヶ月もの間、阻む者がいない虐殺行為はルワンダ全土に恐ろしい勢いで広がっていった。赤十字の概算では100万人が殺害されたにもかかわらず、国連は平和維持軍を2500人から272減らしてしまう。ウガンダから侵攻したRPFが首都キガリを制圧したことで、94年7月に大虐殺は終わりを告げた。フツ族至上主義者のほとんどはザイール(現コンゴ民主共和国)など国外へと逃亡した。

大虐殺の間、300万人が他の国へ逃げられたことで世界最悪の難民危機が起きた。その時になってやっと西側諸国は反応し、人類史上最大の救援活動を96年の3月まで展開させた。その後まもなく隣人の数カ国で紛争が起きたことがきっかけで、難民のほとんどは97年までにルワンダに戻ることになった。大統領暗殺後、拳国家一到政府が樹立され、2000年にRPFの元リーダー、ポール・カガメが暫定大統領へと昇格する。その後2003年のルワンダ発の普通選挙で彼は正式な大統領として選出される。国連はルワンダ国際刑事裁判所を設立し国外逃亡した重要犯罪の裁判にあたり、ルワンダ国内では村落から各層の地方行政レベルで、ガチャガチャと呼ばれる民衆裁判を行い、大虐殺に加担した約8万人の裁定を委ねている。2003年までには、一切の民族別証明を排除した革命と教育プログラムが実施された。フツ族、ツチ族と言う用語の使用も、差別的振る舞いと同様、今ではご法度となっている。政府設立のルワンダ貴族基金には国庫収入の5%が充てられ、数え切れない未亡人や個人のための基金を支えている。

急速に成長しているが、今なお国は復帰途上にある。国の人口レベルはまだ94年当時に戻っておらず、汚職や近隣諸国との紛争(コンゴにおける内戦の関与)など次々に問題に直面している。そして貧困水準はサハラ以南で最も高い国の1つである。フツ族もツチ族も同じところに住み、同じ言葉をしゃべり、同じ宗教を信じ、人種間結婚もしていたので、歴史家や民族学者たちは、フツ族とツチ族を完璧に異なる民族集団ととらえることができないとしている…とまぁ、多少の知識を得てから見ることをお勧めしたい1本である。当時、この作品の主演はウェズリー・スナイプやデンゼル・ワシントン、ウィル・スミスにしようとハリウッドのメジャーな映画会社は考えていたようだが、監督が「青いドレスの女」に出演していた若き日のドン・チードルを見て彼に決めたそうだ。



いゃ〜、当時は若手俳優と言われていたホアキン・フェニックスが良い芝居をしていた。今となってはオスカー俳優になってしまった。冒頭に流れる陽気な音楽のイヴォンヌ・チャカ・チャカのUmqombothiから始まるのがいい。これから地獄を味わう人々の笑顔が満面に写し出されている対比がたまらない。この映画を見るとドン・チードルが今までに主演作品を1度も演じていなかったことに驚く。完璧なまでの芝居力に驚く。結局のところ大統領が何者かに殺されたというのがよくわからない。フツ族大統領殺害の黒幕は最後まで特定されていないし、急進派が怪しいとされているみたいだが、有力とされていたテオネスト大佐は大統領夫人の親友だったみたいだ。それにしてもポールが戦場では酒の値段が高騰することに気づいて、複数のブローカーに手を回して酒を集め、有力者たちに振る舞うことで、避難民が殺されるのを防ぐシーンはすごいよかった。

見事にオスカーを受賞したフォレスト・ウィテカー主演の「ラストキングオブ・スコットランド」もそうだったけど、黒人兵士たちとのやりとりの緊迫感は半端ない。ホアキン演じるジャックが、バーでフツ族とツチ族の見分け方を試しに、隣に座っていた女性2人に聞くシーンなど面白い。それにしても将軍と取引をしてもう一度戻って、家族を探す時の緊迫感はとんでもなかった。生きた心地がしない。あの場面は凄い演出だった。この映画はラストがすごく好きで、あの静止画になる感じに終わるのがたまらなく余韻が残る。そしてWyclef JeanのMillion Voicesの音楽がまたいい(歌詞)。決して希望のない作品ではない。この作品は虐殺中の街をあえて映すときに、シュールで現実離れした雰囲気を作り、現場に近寄らずとも心理的恐怖を感じられるように演出されているのと、作品をドキュメンタリーのように構築するのではなく、主人公の人生に起きた出来事や事実を情感的に抽出することにより、観客に当時ホテルで起こったことを当事者の視点で密かに感じてもらうような演出を重要視しているのが非常に良かった。まだ未見の方はお勧めする。
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