はったん

ホテル・ルワンダのはったんのレビュー・感想・評価

ホテル・ルワンダ(2004年製作の映画)
4.0
「決めておこう。
もし民兵が襲ってきたら、屋上に上がって、私達の子供を抱えて飛び降りろ
タチアナ、約束してくれ。
ナタで殺されるよりマシだ。」


部外者の人間が、実際に起きた悲惨な事件を元にしたノンフィクション映画を観て「悲しい気持ちになる」とか「同情する」とかは適切ではないのかもしれない。

100万人という途方もない数の人間が一方的な差別と偏見によって命を落とした。歴史にはこの事実しか残らないし、当時のルワンダ国民が感じた恐怖はいくらリアリティを追求した映像で再現されようと理解することは決して出来ない。

後の世を生きる私たちに許されることは忘れずに伝え続けることだけである。

冒頭のセリフは主人公のルセサバギナが妻であるタチアナに言った言葉。
一家の大黒柱である父親が妻と子供に飛び降りろと言わせてしまう、実際にこの言葉を本人が話したかは定かではないがそれだけ事態は緊迫しており、もし民兵に捕まったとしても"無事に”殺されるとは限らない絶望の状況を表している。

あえて言うが、たかが地球の裏側の発展途上国の内戦の話である。だがこの映画は、私達の日常におけるあらゆる差別や偏見に通じる重要な一面を剥き出しにしている。

偏見を持つ人間が多数になると"一つの考え方“のように変わって、それが波となって一気に世論まで動かしてしまうこと。
もちろん、彼らには歴史的因縁があるが、それは過去の彼ら出会って当時を生きた彼らとは無関係である。

「差別はいけませんよ」「偏見はいけませんよ」なんて今時小学生でも理解できるが、「なぜ差別がいけないのか」「偏見を持つ社会になると何が起きるのか」までは知らない。
この名もなきルワンダ人たちが生きた命に意味を与えるためにも、必ずこの話は伝えなければならない、そう感じた作品だった。