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幸福の黄色いハンカチのdm10foreverのレビュー・感想・評価

幸福の黄色いハンカチ(1977年製作の映画)
4.2
【それぞれの「出発」】

小高い場所に建つ一軒の家の前。軒先には一本の大きな竿が立てられていて、そこには放射状に黄色いハンカチが「これでもか」と言わんばかりにはためいている。
そしてその傍らには、殺人の罪で服役してようやく出所した男と、その出所を人知れずじっと耐えて待ち続けた女が向かい合って立っている。

このエンディングのシーンに台詞はない。

必要ないのだ。

遠目からの映像では2人の表情はわからない。
だけど何故か2人がどんな顔をして向かい合っているのか、想像できる。
そして自然と涙が溢れてくる。

決して号泣ではない。
しかし、心の奥深くまで届く優しいメッセージがぽかぽかと涙腺を暖め続けるのだ。

ストーリーは単純かもしれない。
結末も見え見えかもしれない。
だけど人は「わかっていても」そこに行かなければいけない時もあるとこの映画が教えてくれる。

武田鉄矢もいい。
桃井かおりもいい。
勿論高倉健も素晴らしい。
この映画に主役はいない。
キャスティング上の主演はいるかもしれないが、強いて言うなら「主役」はあの三人なのだ。
三人が絶妙なバランスでお互いの存在を支えあい、最後まで「無理の無い関係」が続いていた。

そもそも「行きずり」の偶然で知り合った三人なのだから、設定に多少の無理があっても行けてしまうが、そうではなく本当に「自然」なのだ。
途中、何度か桃井かおりと武田鉄矢の台詞がカブるシーンがある。
これも入念に打ち合わせを行って段取りまで決めていたら、きっと生まれなかったシーンである。
自然と発せられる「言葉」がストーリーに命を吹き込んで、本当にあの三人に起きた小さな奇跡を追体験しているような気になる。

ラストシーン。
武田鉄矢と桃井かおりの2人はキスをする。別にこの2人がこの先うまく行って、付き合って、結婚して・・・なんて結末はいらない。
ただ、3人の旅が劇的な幕切れを迎えたことに対する感激のキスとでも言うべきか。
あの後は、そのまま普通に「それじゃあね」とお別れしていてもありだと思う。

そしてみんなが新たなる旅に出発していく、そんな希望が持てるエンディングだった。

ロードムービーは今まで沢山観たが、「ゴール」ではなく「スタート」が強く感じられたからこそ、心に強く残る映画になったと思う。

生きているうちに見れてよかった一本です。
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