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トーチソング・トリロジーのtakのレビュー・感想・評価

トーチソング・トリロジー(1988年製作の映画)
4.6
いきなりオープニングから引き込まれる映画だった。ゲイが集まる店の楽屋で化粧をする主人公アーノルドが、鏡(観ている僕ら)に向かって語り始める自らの恋愛。続く舞台の場面では、次々と個性的なゲイの男性たちが現れて、華やかなミュージカルナンバーが歌われる。その後で、静かに流れるのは恋歌(トーチソング)。同性愛者になろうと思ったわけじゃなくて、生まれついてそうだった。それ故の恋の悲しさ、喜びが暗いステージに響く。アーノルドもその一人だ。

アン・バンクロフトが演ずる母親は、アーノルドがゲイであることを恥じて、厄介な存在だと思っている。理解し合おうと思ってもいつも決裂してしまう。この物語が最も心を揺さぶってくるのが、ラスト近くのふたりのやりとり。亡き夫の墓参りをする母親と、ゲイであるというだけでチンピラに殴り殺された恋人(マシュー・ブロドリック)の墓を拝むアーノルド。二人はまた激しく言い争う。互いの悲しみを理解することがうまくできない。考え方の違いが、お互いにとっての真の幸せを考えることを阻む。辛い場面だ。

性的嗜好とその無理解がテーマではあるけれど、この映画はもっと人間同士が理解し合うことの難しさを問いている。コメディタッチを基軸にハートウォーミングな作品に仕上がっている。製作当時とはLGBTをめぐる状況は違うとはだろうが、きっと今観ても色褪せないだろう。心の底で大事にしたい、と思える素敵な映画。
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