こたつむり

アニマル・キングダムのこたつむりのレビュー・感想・評価

アニマル・キングダム(2010年製作の映画)
2.8
血が滲むように。
徐々に赤く染まり、気付けば漆黒。
ゆっくりと蝕む狂気を避けることなど誰にも出来ず、鈍痛の赤だけが支配する家族の物語。

とても静かな暴力映画でした。
主人公の母親がヘロインの過剰摂取で死ぬ場面も。頭蓋骨に銃弾が食い込み、血が飛び散る場面も。直接的に描かれることはなく、観客の想像力に任せるような体裁です。

しかし、背後に流れる重い音楽のように。
根底には“明日が見えない”閉塞感が支配しているのです。しかも、主人公は目の前の状況から逃避している少年。だから、底なし沼にズブズブと嵌っていくような不快な気分が続くのです。

そして。
タイトルの『アニマル・キングダム』とは。
主人公が属することになる犯罪一家のこと。
彼らの犯罪歴は言及されませんが、愉快な家族でないことは確かな話。清涼剤のようなユーモアも皆無なので、やはり不快な気分が続くのです。

勿論、犯罪映画として。
観客を“不快”にさせたら成功だと思います。
それだけ真に迫る物語だということですからね。しかし、ただただ“不快”な物語は観ていて辛いのも事実。やはり、映画としては緩急が欲しいところなのです。

これで主人公が。
感情を表に出すタイプならば…まだ良かったのですが、実際には何を考えているか判らないので、共感もしづらいのですね。だから、ひたすらに堕ちていく120分は、正直なところ苦痛でした。僕も主人公のように思考停止したくなる次第。

まあ、そんなわけで。
所属する場所を選択できない“未成年”の物語として観賞すれば、それなりに思うところはあるのですが…もう少し、飲み込みやすい演出ならば痛みが倍増して傑作になったと思います。また、個人的に注目しているジョエル・エドガートンも…印象が薄い役どころで残念でした。

そして、観賞後に知りましたが。
本作は実話を元にした物語なのだそうです。
なるほど。それならば、明日をも知れない閉塞感を描ききった理由も理解できます。ただ、本作以上の“野生の王国”が実在したことも知っていますからね。げに恐ろしきは、実話に限界はない…ということですな。
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