神保町シアターの特集上映『生誕115年記念 映画監督 小津安二郎「をんな」たちのいる情景』にて鑑賞。本特集上映で鑑賞したのは本作『彼岸花』のほか『秋日和』『東京暮色』『晩春』の4作。
母一人、娘一人の親子がいて、娘は母を一人にできないからと、自分の気持ちを抑圧し結婚をあきらめている。それなら母が再婚すればいいのではないかと、亡き夫の友人たちがアレコレやっていくうちに母と娘でいろいろあり…。
親一人、子一人で子が親を心配し、結婚をあきらめる(したくないと思う)というのは、1949年製作の『晩春』と同じテーマ。『晩春』は父親と娘の物語。その際、娘役を務めた原節子が10年強経って、1960年製作の『秋日和』は母親役を演じている。
『晩春』と比較すると、10年の間に親に対する意識がかなり変わったような気がする。『晩春』の時は、そうはいっても子供の中で親の存在が大きいのかなという印象だけれど、『秋日和』になると結構蔑ろ。
娘(司葉子)が母(原節子)に直接的にそういう態度をとるのではないのだけれど、継母を持つ娘の友人(岡田茉莉子)が、娘の母に対して「重荷」とか「邪魔」とかズバッと言っている。1950年の朝鮮戦争による特需以降経済が急成長して1960年は高度経済成長の真っただ中だったから、日本人の意識も随分変わったのだろうと。
親、家族、友人って、かつては物質的な面で生きていくために必要なパートナーであり、仲間であったりしたのだろう。しかし、豊かになってその役割が薄れてきた結果、それらは自己実現の障害という側面が目立つようになってきた、という感じなのではないかと。
この後の時代、都市化の進行もあって他者との関係性はさらに希薄になっていく。しかし今や格差が拡大しつつあり、食べるための必要性が再び高まってきていて、その見直しが始まっているような気がする。
すると子供の方から「別々に暮らすのは、お金の負担が大きいから一緒に住まない?」なんてことを言ってきたりするのかしら。子供を大切に(甘やかすともいう)育ててきたからか友達みたいな関係にもなってきているから、案外そういうこともあるかも、と希望的観測。
●物語(50%×4.0):2.00
・亡き夫の友人たちのコント感が可笑しい。原節子演じるお母さんがかなり切ない。
●演技、演出(30%×4.5):1.35
・岡田茉莉子が一番印象に残った。影の主役は時代を映した彼女じゃないかと。
●画、音、音楽(20%×3.0):0.60
・これは、という点が思いつかず…。