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バードのmohedshotのレビュー・感想・評価

バード(1988年製作の映画)
4.5
言わずと知れたジャズの巨人、ビバップのオリジネイター、チャーリーパーカーの伝記映画である。実際、通称バードことパーカーは、名優フォレスト・ウィテカーも演じる通り、妻の連れ子たちと夢中になって床でゴロゴロと戯れたりする、子煩悩で人間味溢れる人物であると同時に、体を病み血を吐きながら自らの音楽表現と刺し違える様な気迫と、ヘラヘラとトボけながら他人から金をせびりそれで死ぬまで酒と麻薬をやり続けるドスの効いた闇を内に同居させていたという、極めて複雑なキャラクターである。

また史実では、同じくバード以降のモダンジャズシーンの巨匠となるマイルスデイヴィスが、上京後すぐ彼に弟子入りするが、突然同居を決め込まれたその日に金をせびられ、果ては勝手に彼のステージ衣装を質に入れ、得た金を常習のヘロインに使うという、かつて憧れだった天才の悪魔のごとき与太郎ぶりとダメさ加減に、バード後の天才はついに幻滅し愛想を尽かす。

だが今作では本来創作を上回るバードの悪魔ぶりは控えめで、替わりにイーストウッドのドライだが暖かな人間的視点が注がれており、彼を死の直前まで音楽に対峙し殉じた一人の稀代の天才として描いている。実際、伝記物によくある史実と違う等の細かなクレーム的視点もあるだろうが、それなど霞むほどの名優の優れた演技に納得させられる。何より自らも一人の熱狂的ジャズファンであり演奏もするという、イーストウッドの巨匠に対する敬意と音楽愛が全体に溢れており、素晴らしい。一見気迫迫るセッションとの違いがそこにある。
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