垂直落下式サミング

悪魔のいけにえの垂直落下式サミングのレビュー・感想・評価

悪魔のいけにえ(1974年製作の映画)
5.0
故トビー・フーパーが残した歴史的な映画。
トビー・フーパー監督追悼上映会で公開40周年記念版を鑑賞。スクリーンで観るのはこれがはじめて。
何度みても感動するのは、殺人鬼一家宅に踏み入れた若者の視点でみせられるレザーフェイスの登場シーン。カメラは突如として目の前に現れた大男がハンマーを振りかざす姿を見上げるように撮し、彼が若者の頭部を殴打する瞬間は遠巻きから眺める固定カメラに切り替わる。倒れた男がビクビクと痙攣する様子は、社内での会話の内容「家畜の屠殺」から前フリが利いているし、この身も蓋もない即物的な殺しには妙に現実感があり、今この瞬間にも世界のどこかでこうやって人が殺されているのではないかと背筋に薄ら寒いものが這い回る。そのすぐ後の、家に吸い寄せられていくかのようなローアングルのカメラワークも見事としか言いようがない。
映画は、不吉な事件を告げるラジオではじまり、渇いた土地、野生動物の死骸、不気味なヒッチハイカー、障害者にも平等に死が与えられる無情など、不快なものを連続してみせていくことで恐怖を煽る。これが70年代ホラーで主流だった直接的ショック表現だが、家の内部に散らかった骨、毛皮、血痕、けたたましく鳴り響くエンジン音、血走った瞳、泣き叫ぶ女の悲鳴と、画面内に過剰に盛り込まれた不快さのすべてが淫靡な輝きを帯びて美へと転じてゆく。
この俗悪なショック映画に不釣り合いなラストの美しさ。あの異様な情景は、撮影技術とかマジックアワーとか、そんなチャチなものではない特殊な磁場のようなものが働いているとしか思えない。時代がこの映画を求めたのだ。