サマセット7

続・夕陽のガンマン/地獄の決斗のサマセット7のレビュー・感想・評価

4.6
いわゆる「ドル箱3部作」の第3作品目。
監督は3部作通じてセルジオ・レオーネ。
主演も同様、クリント・イーストウッド。
他に「夕陽のガンマン」のリー・ヴァン・クリーフ、「荒野の七人」のイーライ・ウォラックが共演。

南北戦争の最中、賞金首の犯罪者トゥーコ(イーライ)は、ひょんなことから放浪のガンマン・ブロンディ(イーストウッド)と出会う。
一方、横領された軍の金20万ドルが何処かに隠されたという話を追い求め、冷酷な殺し屋エンジェル・アイ(リー)が関係者のもとを訪れる。
やがて隠された大金を求めて、3人の男たちの旅路は重なっていくことになる…。

マカロニ・ウエスタンの代表的名作。
オールタイムベスト常連の西部劇。
荒野の用心棒、夕陽のガンマンと並ぶ「ドル箱三部作」と呼ばれるが、前ニ作とストーリー上のつながりはない。
イーストウッド演じる名無しの男が3部作通じて同一人物ではないかと妄想できる程度だ。

原題は「The Good, the Bad and the Ugly」。
字幕では、善玉、悪玉、卑劣漢と訳されていた。
主役、悪役、コメディリリーフ、あるいは歌舞伎でいう一枚目、ニ枚目、三枚目というくらいの意味で捉えてもよかろう。
これはそのまま、ブロンディ、エンジェルアイ、トゥーコに対応し、劇中で二回、ご丁寧にも各キャラクターの表情アップと共に「the Good」「the Bad」「the Ugly」と紹介される。
この三役は、まさに伝統的西部劇の配役そのものである。
しかし、序盤で明らかになるが、クリント・イーストウッド演じるブロンディ(金髪の意味のあだ名、本名は不明)は、賞金首のトゥーコと組んで賞金を騙し取ろうとする悪党であり、良く言ってダーティヒーロー、どう考えても善人ではない。
つまり今作のメインキャラクター3人は全員が悪党であり、タイトルの「the Good」という役割は、伝統的なヒーロー像に対するレオーネ監督一流の皮肉と受け取れる。
また、主演はクリント・イーストウッドとクレジットしておきながら、今作の実質的主役は、明らかに「三枚目」のトゥーコであり、セリフ量も描写の掘り下げもキャラクターとしての魅力も突出している。
今作で、イタリア人監督が如何にして伝統的西部劇を徹底的に解体したかという点は、大きな見どころになる。

今作のジャンルは紛れもなく西部劇、すなわちアメリカの荒野を舞台にしたガンアクションだが、ロードムービー、バディムービー、複数陣営によるお宝争奪戦、コンゲームといった多様なジャンル要素を含む。
また、南北戦争の北軍や南軍の戦闘や捕虜の扱いなどを描くシーンがあり、歴史ものという側面もある。
こうした多様な要素は前ニ作には見られなかったもので、今作の大きな特徴である。

とはいえ、レオーネ監督の代名詞的なロングショットと接写の対比的なカメラ捌き、エンリオ・モリコーネによる相変わらず素晴らしいエネルギッシュな音楽などによる情景描写の雄大さ、乾いた空気感は、前ニ作と同様に健在である。

今作のメインストーリーは、3人の悪党によるお宝争奪戦。
しかし、そのストーリーは、前述した多様な要素を含むエピソードの積み重ねでできており、直線的ではない。
各エピソードには豊潤な味わいがあり、今作の大きな魅力になっている。

各エピソードはいわば、門外漢から見たアメリカ南北戦争史と西部劇の面白い要素全部載せである。
絞首刑とガンマンの正確無比な射撃、平穏に暮らす家族の下に無造作に現れる恐るべき殺し屋、砂漠の放浪、騙しと裏切り、軍隊による捕縛、拷問、汽車上のアクション、多数対少数のガンファイト、戦場での秘密作戦。
宝探しのスリルと興奮。
そして、ラストのあまりに有名な三つ巴の決闘。
どのシーンの映像も用いられるセリフも印象的で、さすが名作と思わされる。

これらの各エピソードはユーモアあふれた気の利いた台詞回しにより、コミカルささえ漂わせて描かれる。
そのユーモアの多くは「卑劣漢」トゥーコから発せられる。
手の平をくるっくるに返しまくるトゥーコ!
仕返しできることが嬉しくてグフグフ笑ってしまうトゥーコ!
宝の情報を失いそうになって慌てるトゥーコ!
調子に乗って墓穴を掘るトゥーコ!
ドヤ顔でトドメを刺そうとしてズッコケるトゥーコ!
真顔で歴史に残る見事な返り討ちを見せるトゥーコ!
有名な「この世には2種類の人間がいる」から始まるセリフは今作で何度も繰り返され、そのドヤ顔が笑いを誘う。
「卑劣漢」の役割を振られた彼の、意外な人の好さは映画の進行とともに明らかになる。
今作を最後まで観ると、トゥーコを演じる厳ついイーライ・ウォラックの悪人面が、なんとも可愛く見えて来るから不思議だ。

そして、そのトゥーコを見つめるクリント・イーストウッドの、台詞こそ少ないが、皮肉な視線で語る豊かな表現もたまらない!!
こいつこそダーティーヒーロー!!
すらりとした長身もあって、実にワルカッコいい。終盤、ついに3部作恒例のポンチョを身に纏った姿には、見ているこちらの鼻息が荒くなる。

「悪玉」エンジェルを演じるリー・ヴァン・クリーフも、顔と特徴的な眼だけで強さが伝わるのは「夕陽のガンマン」同様。
前作ほどの技倆を示す描写はないが、繰り返される冷酷な追い込み描写もあり、存在感は大きい。

今作のテーマは、最後に笑うのは、どんな奴か?である。
その裏には、前述の伝統的西部劇や当時のハリウッドの定型的ヒーロー描写に対する強烈な風刺と、鋭い現実感覚がある。
特に印象に残るのは、終盤の橋のシーンとラストの決闘シーン。
橋の下でトゥーコとブロンディの2人が、死すら覚悟して互いに発するセリフの意味は、最終盤に明らかになる!!!
最後のオチも皮肉が効いて、それでいて大らかで、最高である。

今作は全員が悪党という映画だが、それぞれ最後の一線は律儀に守っている。
この辺り、レオーネ監督の信念や倫理観によるものか、当時の世情への配慮かはわからないが、虚無的な暴力映画に堕していない点に、私は好ましさを感じる。

今作は、ワンクールのドラマを3時間に詰め込んだかのような、盛りだくさんのエンターテインメント映画である。
他方で、最近ではあまり見られない悠然とした語り口や非直線的なストーリーは、特に前半、落とし所を示されないまま長々と連れ回されているように感じるきらいがある。
この点は、好みが分かれるかも知れない。
できれば、あまり性急に先を急がず、一つ一つの豊かなエピソードをじっくり味わい尽くすつもりで観たいところだ。これは映画鑑賞全体に言える教訓かも知れないが。

優れたエンターテインメントとして、オールタイムベスト級の一本。
なお、今作はクエンティン・タランティーノ監督がオールタイムベスト作品の第一位に挙げている映画としても知られる。
タランティーノ作品と見比べて、今作の影響を想像するのも一興だろう。