しゃにむ

カンパニー・マンのしゃにむのレビュー・感想・評価

カンパニー・マン(2002年製作の映画)
4.0
「小さい頃はオリマーになるのが夢だったけど今はピクミンになった」

引っこ抜かれて 闘って 食べられる
(社畜の歌)

↓あらすじ
優秀な男が脳審査をパスしてハイテク会社の産業スパイに採用される。様々な会社に潜り込んで機密情報を会社に伝える。そんな時にショートカットの美女に偶然出会う。何故だか彼女に惹かれる。以来頭と首が痛み記憶が曖昧になる。再び彼女と再会。彼女は男の素性を見抜き男が会社に洗脳されていると忠告する。解毒薬を飲み男は正気に戻る。会社は会議と称して幻覚を見せて記憶を上書きするスパイを洗脳していた。そこで女から二重スパイに誘われ敵対会社のスパイになる。両方の会社を行き来する男。敵対会社で男に指示を出すルークスという謎のスパイ。利用され消される不安。男の自己意識が崩れる。自分の記憶は作りものなのか。自分は何者か…

・感想
社員の記憶を洗脳し意のままに操る暗黒企業に翻弄される男の悲壮…と思わせ最後に視聴者を騙す暗黒映画という巧みな仕掛け。スパイ映画によくあるド派手なドンパチは無いながらも「やり過ぎだろう…」と会社の暗黒面を垣間見る恐怖が生々しく感じられる。産業スパイが主人公(そもそも産業スパイという存在自体が腹黒いと言うか汚いと言うか何とも言えない気分になる)もちろんスパイだとバレては計画がおじゃんだから身分を偽る。嘘のプロフィールを叩き込む。せいぜい設定を暗記するくらいだろと高を括って視聴するとたまげる。会議室にスパイ集団を座らせる。水に薬を混ぜて意識を奪う。そして頭に付ける特殊な機械を用いてサイケデリックな映像を眼球に流す。ヒェッ…と驚く内容。スパイ本来の個人情報を流し「not」とひたすら連呼する。個人情報を全て否定する。自己意識を否定する情報を無理やり刷り込ませる。そこまでやるかとドン引きだ。違う違うと幻聴が鼓膜に染み込み自分が失われて行く、同時に新たな自分(会社が作った虚構人格)を自分だと思い始める。主人公は覚醒しているので洗脳はあまり効かないけど周りは酷い。正気を失った表情でなだれ込む嘘情報をどんどん吸収して行く。シュールな悪夢的光景。ただ金をもらう為にここまでするか…社員の人格を書き換えてしまう人権意識が頭にない会社の横暴っぷりたるや悲鳴が出る。企業の力が巨大になるに連れて個人の力は弱まる。食べる為には自分も捧げる。憲法で不可侵とされる個人の記憶にすら会社の魔の手。無法地帯。情報化や産業化の極端な到達点を見るようでおぞましい。遠く無い未来ディストピアのようだ。ここだけでも十分興味深い肝試しだけれど後半からますます面白くなる。洗脳されずに自分は誰だか分かっている(はず)の主人公に動揺をかける。最初にスパイとして雇われた会社に来た時点の記憶に作為がある疑惑が生じる。もともとの記憶も会社が用意した偽の記憶なのでは無いか。敵対していた企業が見せる自分の家の映像から見える謎の監視機器。妻は雇われた偽の妻。家庭は偽の家庭。じゃあ、自分は一体何者なのだ?徐々に追い詰められて足元が崩れ行く。そして肝心のディスクを盗み出し自分を寝返らせた謎のスパイに会うことになる。消される不安。自分たちを信じるよう懇願する美女。影で糸を引く黒幕の正体…読めなくも無いけれどアイデンティティクライシスの後のまさかの展開は爽快感がある。産業スパイの活躍と自己存在の不安がなかなか面白い。ブラック企業のやり過ぎ具合に笑えないのが自分が一番笑えない()
しゃにむ

しゃにむ