垂直落下式サミング

子連れ狼 死に風に向う乳母車の垂直落下式サミングのレビュー・感想・評価

4.5
子連れ狼シリーズ第三作目。
前作では、拝一刀の技量のほどを推し量るためだけに死んだ奴や、死ぬことが前提の戦術をとっていた奴がいたが、本作でも当然のように刺客たちは命を粗末にする。
性懲りもなく、ひとりが捕まえておいて、残りが仲間もろとも斬りつけるという作戦が出てくるのである。仲間が死ぬのは当然の算段かのように、当たり前のように死んでいくのだ。
今回は拝一刀が人に雇われ復讐を代行するおはなしなので、裏柳生への復讐要素は薄め。
一方で、陰隠滅滅になりがちなストーリーのなかで希薄になっていた「真の武士道」というものを考察しており、一刀が一目置くほどの剣の腕前を持ち、録なしの浪人ぐらしながら、士道を重んじる孫村勘兵衛なる男(加藤剛)が登場する。
さらには、義理人情の世界に生きる忘八者の侠女(浜木綿子)が、元宝ジェンヌの明朗な台詞まわしで惚れさせる。抱かれたい!
仁義を重んじる彼等の前で、拝一刀も武士の武士らしい質実剛健な振る舞いをみせるのだ。
一方で、敵役の猿渡玄蕃という悪徳代官は、権力にものを言わせるタイプの悪役だ。我が道を信じる美しい武士たちが多く登場する作品のなかで、こいつが偉そうに振る舞うと、「お前のような小物ごときが、私利私欲のために彼等を陥れるのか!」という憎々しさがいっそう強まる。
とは言っても、武士道を標榜する善玉たちの行動もなかなか酷く、一刀が大五郎をおとりに刺客をだまし討ちにしたり、孫村がチンピラに襲われていた母娘を助けたのかと思ったら、顔を見られたという理由で斬り殺すという卑劣さもみせていくので、結果的に武士道という価値観の理解のできなさが、強く全面にせり出してくる。
手投げ弾やガトリング、二丁拳銃など、万能乳母車の秘密兵器を使って、100人あまりの刺客を討ち果たす大立ち回りや、ぶりぶりという謎の拷問にかけられる様子も見所だが、直立したままにして抜刀し二人のチンピラを事も無げに斬り伏せる身のこなしは、地味な場面ながら見惚れてしまう。鞘から飛び出した刀が、外道の命を絶つ最短距離を高速で移動する。剣劇の経験がない役者にありがちな、刀に振られている感じはしない。体がずしんと、そこにある。体幹をコントロールしきっているのだ。
さらにすごいのは、ラストに斬首される側の主観視点をみせるところ。視点が空中でぐるぐると回転し地に落ちて転がる映像は、普通なら、これをみたら死ぬ光景であり、言うなれば、この世のビヨンドである。これは実際にカメラを転がして撮っているのだろうが、当時のカメラの大きさを考えると、ある程度は無茶をしないと撮れない。
これをみせられて、刃の長さが6センチを超える刀剣類を携帯してはならない国に生きる我々は、どう感じればいいのかはわからないが、首を刎ねられて、頭が胴から切り離されたら、本当に世界がこんな風に見えるんだろうと、首元が冷たくなってくる。