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別離のotomisanのレビュー・感想・評価

別離(2011年製作の映画)
4.0
 公けの審問所で妻シミンは娘テルメ―の成長にイランの地は好ましくないと平然という。アフガンならタリバンが、イラクなら公安が黙ってはいないだろう。ではシリアなら?訴える先を探すより難民として出国してしまうのだろう。
 しかし、ここイランでは夫ナデルと妻シミンの仲は他国への移住で拗れて離婚の危機にまで至ってしまう。そうまでしてシミンがイランを出たがる理由が何か?夫婦の別居で始まって離婚手続きで終わる間に一家が抱えたもうひとつの係争を眺めると分かる気がしてくる。

 ナデルは別居する妻の伝手で認知症の父親の面倒をヘルパー、ラジエーに依頼するがそれが不手際で事故続き、金までなくなったとしてナデルが彼女を追い出せば、そこからラジエーの流産、ナデルの殺人容疑につながり、ナデルからは父親の監禁容疑でラジエーへの訴え返しまで発展する。
 前の作品「彼女の消えた海」でもおなじみの嘘の応酬、脅迫、法廷外闘争にもちろん示談もあっていろいろだが、どこをとっても娘に対して胸張って父さん母さんを信じて目を逸らしてはいけないなんて言えないだろう。
 あの娘テルメ―の恐る恐る生きているような覚束なさなんだが、こんな大人たちの闘場を目の当たりにしながら同じような大人になっていくんだろうか。するとこれを嫌ってテルメ―は母親と共に移住を望むのだろうか?それとも、うそを吐くし姑息さも隠し切れないけれども示談を受け容れて妻とよりを戻す望みをつないだ父親につくのだろうか。
 それを考えるうえでカギとなるのはナデルの殺人容疑だが、ナデルが示談の条件として、流産の原因がナデルにあると神に誓って言え、とラジエーに求める件である。これに応じられないラジエーの懸念もまた、神に偽りの誓いをして、その災いが自分の娘に及ぶ事にある。

 どちらの親も子どものために矛を収める格好だが、シミンとナデルだけは子の面倒見で対決となる。テルメ―がどちらを選ぶのか知らないが、母親と出国したところで、行った先でイラン流に係争を持って、今はまだ11歳のテルメ―だがいずれ親と同じようなイランの女に成長してゆくんだろう。