emily

別離のemilyのレビュー・感想・評価

別離(2011年製作の映画)
4.5
 11歳の娘の教育のため海外へ移民することを考えている妻だが、認知症の父親の看病のため夫は母国に残るという。そんな父親の看病のため雇った介護人は、ある日私用のため出かけ、父親は意識不明に。思わず介護人を追い出した夫だが、後日彼女が流産したと聞き、事態は思わぬ方向へ進んでいく。

 見事な心理戦により、じわりじわりと物語を転がし、観客を翻弄していく。揺れるカメラで口論や、臨場感を煽り、人の心理の隙間を見事に捉え、細やかな心情描写が物語を構築していく。そこには社会格差、宗教などが上手く絡み合い、人と人との関わりにはだかる大きな壁を見事に操り、人の命と言う大きな物へ直面させる。絡まる嘘、互いに自分を守るために嘘に嘘を重ねていく大人達。そこに交差する11歳の娘の目が真実を語り、その嘘を暴いていく。さまざまな目線が交差しながら、唯一中立な立場で見ているのが娘の目線である。そしてそこではごまかしが効かない。物語は見事に娘の目線にまとめあげられ、正義を問う。だれかが悪い訳ではない。誰かひとりの責任ではない。だからこそ感情移入の対象がコロコロ変わり、自分の心に潜む闇を暴かれていくような気持ちになる。

 じわりじわりと心情が交差し、核心には迫らず、じらしながら紐解いていくサスペンスが人の愚かさと優しさを同時にあぶりだしていく。スリリングでじっとりまとわりついてくる巧みな脚本に目が離せない。
emily

emily