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狼は天使の匂いのakrutmのレビュー・感想・評価

狼は天使の匂い(1972年製作の映画)
3.3
ジプシーに命を狙われてモントリオールに逃げてきたフランス人のトニーが、モントリオールのギャング団に捕まり、彼らの仲間になって誘拐を企てていく様子を描いた、ルネ・クレマン監督のギャング映画。デイビッド・グーディスの小説「Black Friday」(邦題は映画と同じ)が原作であるが、脚本家のセバスチアン・ジャプリゾが内容をかなり変えているので、映画の中で原作としてクレジットはされていない。セバスチアン・ジャプリゾは有名な小説家でもあるので、本作の脚本は新たに小説化(邦題は、映画と異なり『ウサギは野を駆ける』)されている。

映画の冒頭にある子供たちのシーンでルイス・キャロルの言葉が引用されていることからわかるように、本作は大人の物語として描かれていながらも、その内容は子供の交友関係を描いたものである。というよりは、ギャングなどのアウトローたちの世界は子供と同じであることを描いていると言える。なので、大人の物語として見ると、よく理解できないストーリー展開も少なくない。例えば、主人公のトニーと、トニーが車から突き飛ばしたことが原因で死んでしまうギャングの妹がなぜかできてしまうという理解できない展開があるが、無邪気な子供たちとして考えるとそれほど不思議ではないかもしれない。ギャングの一人であるマットーニなんかは、そのまま子供っぽく描かれている。

その中で一人だけちょっと違って大人びているのがトニーであり、トニーを演じるジャン=ルイ・トランティニャンだけが大人の渋さを感じさせてくれる。そしてその人物像は、冒頭に出てくる他の子供たちになかなか溶け込むことができない男の子(トニーと同じような色のジャケットを着ている)と重なっている。ちなみに、その中でパイを食べている少女が、子役としてデビューした8歳のエマニュエル・ベアールである。

まあ、以上のようなことを知った上で見るとそれなりに面白いのだが、個人的にこの映画はピンと来なかった。やっぱり『禁じられた遊び』や『太陽がいっぱい』などと比べると見劣りしてしまう。特に、ストーリーとは関係ないのだが、モントリオールのギャング団のダサさが気になってしまった。だって、カナダの大自然に住んでいるただの田舎者にしか見えないんだよ、リーダーのチャーリー(ロバート・ライアン)をはじめとする男性たちが。フランス人のことをフロッギーと小馬鹿にするけれど、格好いいジャン=ルイ・トランティニャンへの僻みにしか見えないし、そもそも世界中で最も味覚がないのはお前たち(北米の人々)だろ。せっかくのルネ・クレマンなんだから、フランスを舞台に同じストーリーで撮影したほうが良かったのではないだろうか。特に前半はずっとギャング団のアジトのシーンだったので、とても退屈であった。天使とは言えないなあ。
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