藤見実

愛情萬歳の藤見実のレビュー・感想・評価

愛情萬歳(1994年製作の映画)
5.0
ツァイミンリャンのタイム感! 冒頭から何分も台詞がないがそれでも映画は持つんだな。

タイトルのつけ方は例えば『アカルイミライ』みたいなもんなんで、心配しないで見て欲しい。

(ゲイの)男がリストカットしてから、彼は「貿易商」の男以外に対しては徹底的に「幽霊」として機能している(もちろん死んだとかそういうリアルの話をしてるんじゃなくて。水はゴクゴク飲むんだから)(納骨堂にいくところで露骨に示されているし、電話も取れなければゲームにもセックスにも参加できないことからわかるだろう)、だから、だからこそそっと静かなおわかれのキスが泣くほど美しい。「幽霊」の息遣いは荒い。

空き物件を舞台にしている以上必ず生じるだろう「なにかいないものが余白として映る」雰囲気が緊張を呼び、それが見事にスクリーンに漲っている。水を飲むときにそれが一寸途切れるようなメメントモリ的緊張、「自らの死」というよりは「そこにいないもの」を覚えていろというような緊張。というかそれってカメラが回ってることの緊張なのか?
全然似てないけど似ているものとしてヴェンダースの『ベルリン天使の詩』がうるさすぎる緊張だとすればこっちはその対極で静かな。

女の泣き顔。お前ずっとティッシュ(っていうか顔や手をふく紙類を何度も使うシーンがある)の人だったろ、早く出してふきなよ! って言いたくなるほどの(風に吹かれて髪が顔に張り付いてぐちゃぐちゃになった泣き顔の)長回し。


「貿易商」が売る衣服の白い布の上に広がっている画、(ゲイの)男が風呂場でやる洗濯の入水自殺みたいな画、ヤバいよ。


『楽日』でもそうだったのだがタバコに火をつけると映画的時間を掴むことができるような。笑える。

最後女の歩くのの長回し。フレームアウト、フレームイン(感動的だ)! 観客席に座って泣く女。もうー。


わたっちゃいけない横断歩道の「境界」示唆性、ずるー

ツァイミンリャンは『楽日』に続き二作目の鑑賞だったが。マジで大好きです。
藤見実

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