ひでやん

自転車泥棒のひでやんのレビュー・感想・評価

自転車泥棒(1948年製作の映画)
4.4
戦後のローマを冷酷に描いたネオレアリズモ映画の代表作。

長い失業の末、ようやく職を得たが、仕事に必要な自転車がない。シーツを質に入れ、なんとか自転車を手に入れたが盗まれるという悲劇。

絢爛豪華な衣装も美術もない。洒落た台詞も派手なアクションもない。それらのドラマ性を一切排除してドキュメンタリー的に映し出すのは不条理な現実。

盗まれた自転車を探す、ただそれだけの物語だが、親子の目を通して徹底的にリアルな現実を突きつけ、どこまでも憐憫の情を誘う。

人々は職業安定所の前に押し寄せ、占い師に頼り、教会で食事の施しを受ける。当時の社会背景を、困窮する庶民を描きながら、カメラは親子と共に町を彷徨う。

自転車でしか仕事ができず、徒歩でしか探せない親子を撮るデ・シーカ。親子が探し続けるそれは、漁師なら船、ドライバーなら車という商売道具で、切羽詰まった父の表情に奇跡を願った。

市場で見つけたパーツは型番が違い、途方に暮れる2人に降り注ぐ雨。犯人も老人も見失い、息子に当たってしまう父。もう、泣きっ面に蜂とビンタとパイ爆弾。

森で木の葉を探すような絶望感、歩き続ける疲労と執念、見つからない焦燥と惨めさ、観客まで引きずり回してクタクタにさせるデ・シーカは、暗闇に花火を打ち上げず、小さな光を灯した。

「何とかなるさ、生きていれば」

レストランで見せた2人の笑顔が胸を締め付けた。

期待する観客の目に奇跡を映さず、子供の目に残酷を映すラストは切な過ぎる。
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