垂直落下式サミング

自転車泥棒の垂直落下式サミングのレビュー・感想・評価

自転車泥棒(1948年製作の映画)
5.0
仕事道具の自転車を盗まれた男が、盗まれた自転車を探して町中を駆け回るという話。戦後イタリアにおける労働者の姿をリアルに描いている。
庶民の困窮を描いた話だけに陽気であるとは言えないが、人柄の良さそうな友人に相談しに行くところや、妻の前では小馬鹿にしていた胡散臭い占い師に頼ってしまうところなど、少なくとも前半の物語にはユーモアがある。
しかし、一つの小さな事件が原因で次々と不幸に不幸が重なり、町を駆け回りながらどんどん惨めになっていってしまう父親が、あまりにも身勝手で下等な行為に手を染めてしまうラストの数分で、それまで蓄積されてきた「どうしようもなさ」が一気に溢れ出してくる。
親子が手を繋いで帰路につく場面は、どうすることもできない絶望を見せられ暗い気分にはなるが、どんなに身を落とそうとも明日を生きる権利は誰にでも平等にあるんだと確かな美しさも感じた。
人は金がないと心が廃れる。否応もない真実だよなぁ。