「戦争に負けるってこういうことよっ!」
......と戦争経験者の私の母だったらにべもなく言い切りそうな映画。
映画には戦争は全く描かれていないのですが、戦後すぐのイタリア、ローマの街も人も殺伐としていて、失業者にあふれ、石造りの街なんだ、としみじみ思う埃っぽさ。
2年間無職で、やっとポスター貼りの仕事を得たアントニオという男が、仕事初日に大事な仕事道具である自転車を盗まれてしまう。
質に入れたのを戻す為に家のシーツを質に入れてまで用意した自転車なのに、情け容赦ない自転車泥棒。
アントニオは6歳の息子を連れてローマ中を自転車を探して歩き回ります。まずは盗品が出回る市場、貧民たちを集めてミサをする教会、占いの所まで、そして自転車を盗んだ青年を見つけたと思い、追いかけますが......
正直者が馬鹿を見る、という哀しい現実から目をそらさずにリアリティに徹した名作。
幼い息子を連れて歩くことで、哀しいファンタジーともなり、なんとか自転車が見つからないかと祈るような気持になります。
映画は淡々としているけれど、荒廃した人々の心の中を歩き回ったような心持になりました。