シズヲ

アメリカの影のシズヲのレビュー・感想・評価

アメリカの影(1959年製作の映画)
3.0
映画の即興演奏。ジョン・カサヴェテスの初監督作にしてアメリカのインディペンデント・ムービーの先駆け的存在。1950年代後半の時点でこうした“ハリウッド的作劇性”から逸脱した映画を撮っているのは実際凄いし、同時期のヌーヴェルヴァーグとほぼ同じ領域に到達していることにも唸らされる。台本無し、シチュエーションのみで撮影したとされる演出の数々は奇妙な生々しさに満ちている。クローズアップの多用で捉えられた役者陣の表情はいずれも印象的。妹役のレリア・ゴルドーニが一夜を過ごした後の面持ち、アンソニー・レイがレリアの兄達と遭遇したときの動揺などは特に味わい深い。

公民権運動は黎明期を迎えたばかり、映画界では未だシドニー・ポワチエやウディ・ストロード辺りしか目立たなかった頃に“黒人の庶民”を題材としている先進性も興味深い。人種差別が根付く社会の中でそれぞれの壁にぶち当たる黒人兄妹達の姿は何とも言えぬ切なさがある。それだけに兄妹達の仲の良さに微かな安心感を覚える。社会派というよりかは黒人兄妹を取り巻く現実を“観察”しているような内容で、即興演出やぶつ切りの編集も相俟ってドキュメンタリーめいた趣がある。ジャズ調の気だるげなサウンドも何とも言えぬ倦怠感に溢れていて秀逸。

映画としての価値は解るけど、好きかと言われれば微妙な部類。『チャイニーズ・ブッキーを殺した男』もそうだったけど、カサヴェテスの映画は些か淡白すぎて乗り切れない部分の方が大きい。更に本作は初監督作品ということもあってか場面構成の継ぎ接ぎ感が否めず、いまいち内容に没入できなかった。“肌の濃さがそれぞれ違うため、置かれた立場が微妙に異なっている黒人三兄妹”という前提設定もちょっと掴みにくい節がある。フォロワーと思われるジム・ジャームッシュの映画は何だかんだ笑ってしまうから好きだけど、カサヴェテスはユーモアも含めてギリギリで肌に合わない要素のが強いんだよな。逆に『グロリア』なんかは滅茶苦茶好きなので、自分の中でカサヴェテスに対してはあと少しの作劇性を求めているのかもしれない。

この前『警視ーK 』を視て思ったけど、クローズアップの多用や“生身の人間”への目線など勝新の演出スタイルはかなりカサヴェテス的だったんだなあと改めて思う。そんでヒュー・ハードはどういう経緯で『飼育』に出演したのかも気になる。
シズヲ

シズヲ