留

火垂るの墓の留のレビュー・感想・評価

火垂るの墓(1988年製作の映画)
2.5
youtube動画でこの映画を見てショックを受けているアメリカの若者達を見たことがある。号泣ものの反戦映画の傑作だと言うことも聞いたことがある。でも泣けなかった。
当時の生活を丁寧に描いているということでは《この世界の片隅に》に通じるものもあるだろう。大事なのは食べること、食料だということですね。
戦争という人災は最も弱い者達(子供、老人、障がい者)に襲いかかり、この映画の主人公、二人の兄妹(14歳と4歳)も犠牲になる。飢え死だ。大日本帝国の将兵が命を落とした最大の原因も飢え。
ただどうにもこういった弱い者達がひどい状況で苦労して死んでいく姿は、可哀想!という憐憫の情が湧くだけであまり気持ちよくない。
日本軍のアジアでの加害は一切描かれないし、軍国少年だったはずの主人公は敗戦も知らずにいた。父の軍艦も沈められて父は死んだことを悟る。その後の少年を見たかったのに彼も妹の後を追って餓死してしまう。
一点、気になったこと。ホタルは初夏の昆虫で成虫は1-2週間の命。妹が亡くなった敗戦後、8月15日以降の盛夏には死に絶えていただろう。映像的には美しいし兄の幻想という風にも見れるけど。
お涙頂戴に堕しているとは思わないけど、《ライフ・イズ・ビューティフル》と似た居心地の悪さを感じる。
期待していただけに残念だ。

★結局これは厭戦映画ではあっても反戦映画ではない。
アジア太平洋戦争を起こした日本の男ども、翼賛体制を作った大衆、国防婦人会、隣組等を描ききった《カーネーション》の後では、底が浅いと言わざるを得ない。
おばさんがちょっと意地悪っぽく描かれてはいるが、彼女は悪人ではない。そもそもこの映画にはいわゆる「悪人」が出てこない。戦争を始めアジアを侵略しアジア民族と日本国民に塗炭の苦しみを舐めさせ、戦後のうのうと生き延びた支配階級や軍人、その頂点の天皇の戦争責任にまったく触れない。そんなことで反戦映画になるわけがない。
《この世界の片隅に》には主人公すずの『何のために戦争したんだ?!あんたらが始めた戦争じゃなかったのか?!』という叫びがあるだけ、これよりずっと優れている。
留