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夜叉のodyssのレビュー・感想・評価

夜叉(1985年製作の映画)
3.0
【健さん vs. たけし】

高倉健といしだあゆみの共演というと、1981年の『駅』はリアルタイムで見たけれど、この『夜叉』は未見で、最近ようやく見る機会があった。どちらも降旗隆男監督作品である。

そういう見方をすると、まあ既視感があるな、というのが最初の感想。高倉健、いや、健さんがこういう役柄をやって似合っていた頃の映画なのである。

むろん筋書きはかなり違うんだけど、あえて一つの言葉でくくるなら、「人生航路」というところだろうか。ここでは愛する女(いしだあゆみ)と結婚して実直な暮らしを営もうとしてヤクザから足を洗い、地方の漁村で地道に生きている男を健さんが演じている。

この村に田中裕子演じる子連れの若い女がふらりとやってきて飲み屋を始める。彼女の魅力もあって漁師の男たちはそこに入り浸りになるが、やがて彼女には男がいることが判明。それがビートたけし。

当時どう受け取られたかは分からないが、作られて30年以上たった今から振り返ってみると、この映画は健さんとたけしの共演が最大の見どころになっている。のちに実生活でも表面化するたけしの凶暴性がこの作品でも感じられて、それは普通のヤクザやチンピラ役の俳優が演じる凶暴性とはどこか違っていて、最近の北野映画にも通底している凶暴性、人間の持つ暴力への根本的な意志を思わせる凶暴性なのだ。そういうたけしの特質と、健さんの持ち味がしっかり拮抗して映画は進行する。

当時、健さんの存在感に太刀打ちできる男優はいなかった。そこにたけしは独特の味でいわば割り込んでいったと言えるのかもしれない。その点からすれば、この映画はそれなりの出来だ。ただし、全体の筋書きは今からすると――多分当時でも――ありきたりで、さほどインパクトがない。健さんファンからすると安心して見られる映画だったのだろうが、そこが逆に物足りないとも思う。
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