レオピン

夜叉のレオピンのレビュー・感想・評価

夜叉(1985年製作の映画)
4.0
男なら出たり入ったりするな

昔近所にいた猫に高倉と名付けていた。何も言わずにひょっこりいなくなり気づいたらまた戻ってきている、傷なんか負って。猫なら出たり入ったりしても怒られない。

よく地上波放送もあったと思うがこれお茶の間で見るようなやつじゃ全然ない。小学校の頃だったかテレビで放映されていた時、包丁持ったたけしが追いかけてくるシーンでオカンとおねえが顔面蒼白で真剣に怖がっていて、いやこれ映画じゃんかとあっけにとられていた。後半はそのまま風呂なんかに行ってしまって見ずじまいだったが、あのまま一緒に観てたらもっと気まづい空間になってた。

女の色気なんてものは露とも知らなかったが田中裕子のあの七色の眼。目の色まで変えられる役者というのはこの人ぐらいだ。最後の笑みにこの人こそ本当の夜叉だと確信した。

しかし子供には早すぎる。
田中裕子といえばサントリーオールド。「蛍」にもあの懐かしいボトルが並んでいた。85年はプラザ合意の年。そして田中角栄が権力の座から転がり落ちた年。竹下登の造反に激怒し毎晩オールドパーを痛飲してそのまま・・・ 彼の政治的生命を奪ったものはオールドパーだった。余談

前半の平和な漁師町があっという間にシャブ漬けになっていくというホラー味はまったく違う意味で怖ろしい。漁協からクレームこなかったのだろうか。心臓が悪いクセに率先して手を出してしまう邦衛。娘を大学に行かせてやるんじゃないのか。もしかして本当にただの栄養剤と思っていたのかしらん。あき竹城の嫁はもちろん純と蛍にも謝れ。

ミナミ時代や妹との思い出、組のために命を張って駆け抜けた若き日がやや浮いた感もある。『冬の華』でもやや臭さを感じたがこういうPVやアニメにも近い演出、要は観客は建さんのフィルモグラフィーと重ねて観られるからこんな演出も効果をあげているのだろう。

特筆すべきは大作さんのカメラ。銀世界と世界を飲み込むほどの荒々しい日本海の波が臨場感と迫力に満ちていた。横殴りの雪に真紅の傘が飛ばされる 息をのむ美しさ

オープニングの走る青年の後姿に重なる若き日の修治の背中。雪景色からのネオンサイン 望遠で捉えた画面に白刃が煌き火花が舞う。
後半もう一度大阪ミナミの街が映されるが、銀世界からの対比が映える。
赤い灯台 千日劇場の廃墟 つるが駅のホーム いくつも記憶に残るカットがあった。

小さな橋のかかる小さな港 あの橋を渡ると浜とは違う世界が待ち受けていた。蛍子と矢島はあちらから来た異界のものたち
テレサ・テン「つぐない」を歌う漁師たちは鬼に引き寄せられた獲物だ 

ほしいなぁ あのたけちゃんが着ていた禍々しい柄のニットトレーナー

役者を観ているだけで飽きない。
薄幸さに磨きがかかるいしだあゆみ
下條正巳の親分はこっちが先か 奈良岡朋子の貫目 稔侍さんの気弱な弟分 邦画を見る喜びはこういうとこだな

たけしが広めたとされる現場で椅子に座らない&ストーブにもあたらない男伝説。この作品以降ヤクザ役とは縁が切れた。昇華できたのは降旗康男という人間と出会えたから。ここにきてようやく晴れて足を洗ったヤクシャ(Yaksa)高倉健。リスタート、この時まだ54歳。

撮影:木村大作
音楽:トゥーツ・シールマンス
主題歌:ナンシー・ウィルソン
日向湖(三方五湖)

⇒邦画サントラベスト級
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