Jun

いま ここにある風景のJunのレビュー・感想・評価

いま ここにある風景(2006年製作の映画)
3.9
映画というより、写真展を見に行った気持ちです。その位の軽さで見に行って良いと思う。
難しく考えるというより、へぇそうなんだぁで、十分意味がある。

ドキュメンタリーの良い所は、当たり前なんだけど、それが現実だという事。
実際に起こっているという事だけで、それはとても感慨深いものになる。

簡単に言えば、中国にある工場や石炭採掘場、造船所などの写真・映像が
次々と紹介されます。ただそれだけなのにその衝撃たるや。
良いとか悪いとかいう話ではないんですね。中国だからという話でもない。
今一番大げさな形になっているのが中国なだけで、
これはどの国の現実でもあるわけです。

産業の発展が、既に地球や気候を深刻に変質させる段階に来ているという
環境に対する視点、
もしくは産業という巨大なうねりの中で、人の自由や個性が完全に埋没し
システムに生かされているという人格や尊厳に対する視点、
もちろん、いろんな見方はあると思うのですが。

難しい話を抜きにして、そのスケールにただ驚くのもありです。
余りに大きすぎる工場やそこで働く人々の量、
また建造期間16年、半分完成しただけで世界一という三峡ダムは、
その建造の為に230万人を移住させ、工事の為に地震が起こるというスケール。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B8%89%E5%B3%A1%E3%83%80%E3%83%A0

日本語題名がイマイチセンスに欠けるのですが、
原題の「Manufactured Landscape」は、含みのある良い言葉を選んだなぁと思います。
「人為的」と言いたいのであれば、Artificialを使えば良いのですが、
ここは工場で生産する事を意味するManufactureでひっかけつつ、
「こんな景色は世界中のあちこちで「大量生産」されている」という点、
また工場のベルトコンベアや流れ作業の様に、
「もはや人がコントロールしているのかされているのか分からない」
個人の意思では(もしくは例え組織がそう望んだとしても)この景色を「生産」していく事は
もう止められないのかもしれないという怖さも示唆しているように思えます。

この作品のもう一つ好きな所は、答えを出さない所ですね。
特にTVのドキュメンタリーや質の悪い映画は
問題提起から考え方、視点、答え、全部作った人のものをそのまま与えてしまう。
それはとても狭いし、見るほうの楽しみを奪ってしまうけども、
こういう、きっかけしか与えてくれないものは、人を考えさせるには素晴らしい題材なのではないでしょうか。
気になる人は、見てみましょう。スクリーンで見たほうが、その途方もない巨大さを、より味わえます。
Jun

Jun