イルーナ

スウィーニー・トッド フリート街の悪魔の理髪師のイルーナのレビュー・感想・評価

4.0
この作品、リアルタイムで母親と一緒に観に行ったのですが、あまりの鬱展開とスプラッターぶりに怒らせた作品。
いや、私もジョニデとバートンという超メジャー級のコンビでここまでグロ描写満載だなんて思っても見ませんでしたよ……
同じく残酷描写を売りにしていた『スリーピー・ホロウ』を軽くしのぐ流血量。ぶっちゃけ『キル・ビル』といい勝負じゃないか?
そしてダークな印象の強いバートン作品でも際立っている、徹頭徹尾救いのないストーリー。
しかしこの作品、ほぼ全編にわたってモノクロに近い陰鬱極まりない色使いに、スラム独特の臭いや不潔さが際立つような描写がなされている世界観の凝りようが凄い。
世界観と言えば、ラヴェット婦人のドレスはわざわざヴィクトリア朝時代の布を探し出して作ったというこだわりっぷりだし。
とりあえず、この時代のロンドンの世紀末っぷりの表現は一見の価値あり。
それだけに、海辺の町で家庭を築いて幸せに暮らす空想の描写の鮮やかさが際立つ訳ですが、この場面のトッドとラヴェット婦人の衣装が可愛い。
もっとも、この二人のやってることがやってることだけに、異様さも際立つわけですが。

元となったミュージカルは、バートンが学生時代に観て衝撃を受けた作品の一つらしい。
確かに世界観もテーマもぴったり。なおかつ、ブロードウェイのミュージカルという1級品とB級ホラー映画がミックスされたような不思議な作品。
描写は非常にグロいんだけど、歌がするする心の中に入って最後まで見入ってしまう。
本職でない映画俳優たちが歌いまくっているわけで、本当にご苦労様です。
リアタイで観た時は「Johanna」が印象に残っていたのですけど、今観ると証拠隠滅と肉の調達の一石二鳥のアイデアを思いついた時の「A Little Priest」が好き。
様々な職業の人間を味に例える恐ろしい歌詞なのに、何だかワクワクしてしまう。

終盤は怒涛の展開でしたね。
身寄りのない自分を救ってくれたラヴェット婦人に恩義を感じていたのに、店の実態を知ってしまうトビー。
精神病院から脱走した実の娘ジョアナはトッドの店に身を寄せるも、顔を知らない父は容赦なく殺害しようとする!
そして最後に明かされる、謎の物乞いの正体。トッドは過去や復讐に捕らわれるあまり、最愛の人の顔すら思い出せなくなっていた……
サスペンスと取り返しのつかない悲劇。いやー本当に怒涛の展開でした。

ちなみに元のスウィーニー・トッドは小説のキャラクターだったのが、舞台化され評判を呼んだことで、やがて実在したのではと囁かれるようになったという。
実際はこれだ、と言えるだけの証拠は見つかってないそうですが、似たような内容の事件があったという話もあるし、これをモデルに作られたのかもしれない。
つまり、当時の事件や社会情勢が産んだキャラクターだったのが今でも語り継がれているわけですから、それだけセンセーショナルかつ普遍的なものがあったってことなんでしょう。

アニヲタwikiにまとめた記事
https://w.atwiki.jp/aniwotawiki/pages/53091.html
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