みかんぼうや

鍵泥棒のメソッドのみかんぼうやのレビュー・感想・評価

鍵泥棒のメソッド(2012年製作の映画)
3.8
【私的“キング・オブ・邦画クライムコメディ”内田監督とあの半沢コンビがタッグを組んだ、超練り込まれた脚本を堪能できる極上クライムコメディ】

内田けんじ監督作3作品目の視聴。毎度のことながら、ただただ舌を巻く内田監督の天才的脚本。それを彩る豪華キャストには、この1年後に「半沢直樹」で世間の注目を全てかっさらうことになるTVドラマ史上屈指のゴールデンコンビ、堺雅人×香川照之。面白くないわけがない!

“天才的脚本”と書きましたが、内田監督は感性の天才というよりは思考の天才というイメージがあり、この超緻密で入り組んだ脚本と畳み掛けるような展開、狙いすました演出の連続は、内田監督が時間をかけて徹底的に考え抜き練り上げて熟成されたものであることをどの作品を観ても感じます。

自殺未遂の男が銭湯でのちょっとした事故で記憶喪失になった殺し屋稼業の男と入れ替わりのような人生になりながら徐々に犯罪の渦に巻き込まれる、という設定から興味をそそられるのに、そこから一筋縄ではないかないどころか第二、第三と次々に話がひっくり返りながら伏線回収していく巧妙な展開もありつつ、意外とベタなコメディ要素やラブロマンス要素も突っ込んでくるあたり、サンフランシスコ州立大学で鍛え上げられた映画製作力と実はシンプルで分かりやすい作品が好きという監督本人の元々の嗜好や日本人としての感覚によるものなのでしょうか。

いずれにせよ、3本観て、そのどれもに練り込まれた脚本と徹底されたエンタメ性溢れる演出で感嘆させられる、というのは本当に凄いです。本作を観て、私の中では“キング・オブ・邦画クライムコメディ”はやはり内田監督であることを確信させられたのでした。

ちなみに、3作観た内田作品の中では、最初に観た、個人的“和製パルプ・フィクション”の「運命じゃない人」が一番好きで(内田監督作品初見のインパクト補正もあると思いますが)、次がこの作品かな、と思いました。ただ、3作品どれもが「ちょっとマイナーな面白いオススメの邦画を観たい」とそこまで映画好きじゃない人に聞かれた時に真っ先に薦めやすい作品で、その中でもキャストや展開から、この作品が特に薦めやすいかな、と思いました。

が、どの作品も脚本が練られ過ぎて、その設定やストーリーラインが複雑ゆえに、物語の超大枠と構成しか覚えておらず、細部については説明ができないほどすり抜けてしまっているのはここだけの話です。
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