ずどこんちょ

エスターのずどこんちょのレビュー・感想・評価

エスター(2009年製作の映画)
3.6
「この娘、どこかが変だ。」という印象的なキャッチコピーすらも、固定観念を植え付けるミスリードでした。

孤児院から引き取った奇妙な少女エスター。彼女の周りには事故や事件が相次いでいます。果たして、少女は何者なのか?目的は何なのか?
悪魔のような少女がもたらす災厄に、平穏で幸せな家族が巻き込まれていきます。まだ幼い子供たちもいる。
どうか無事であってくれ、とヒヤヒヤしっぱなしです。

そして、エスターの真実が分かった時、そういうことだったのか!と驚きと共にこれまでの謎や伏線の意味が明らかになって合点がいきます。
だから見知らぬ男性の写真を挟んでいたのか、だからいつも首にリボンを巻いていたのか、だからピアノをうまく弾けたのか、だからこんなにも計略的なのか、と。
この真実は、斬新な設定でした。面白い!

人気の高いホラーは伏線の張り方が絶妙です。ただ怖がらせて逃げ惑わせれば良いわけではありません。
たとえば、氷の池。作中では直接描かれませんが、その池はかつてケイトが死産のショックで病んでいた時に子供が誤って落ち、そのことにケイトが気づかなかったために死にかけたことのある曰く付きの池なのです。そのため、作中でもケイトは子供たちが池の近くで遊ぶ事に対して激しく怒ります。
本作の物語が始まる前から、一家にとってあの池は命を吸い込む恐れのある、闇への入り口なのです。

怖さを盛り上げる演出もすごく良かったです。
冒頭の死産の悪夢のシーンでも、ケイトの叫び声に合わせてライトの光が伸びます。意識が遠のくような悲鳴を光の筋で感じさせられます。
冷蔵庫を開けるシーンもうまかったです。別になんてことのないワンシーンなのですが、不穏な音楽が流れるだけで冷蔵庫の扉の裏に誰かがいそうな気がしてなりません。なのに、扉を閉じても誰もいない。
これ面白いのは、ケイトの視点からは扉の死角もきっと見えてますし、気配は分かるはずです。恐れているのは、冷蔵庫の扉で視界が閉ざされ、不穏な音楽が響いている私達だけ。
登場人物が感じるのと同じ恐怖を共有させる怖がらせ方は見たことありますけど、登場人物すら感じていない恐怖感を与えてくるのズルいです。

難聴のマックス。音や声が聞こえないという設定はホラー的には怖さや緊張感を倍増させます。
言葉にして話せないこともあってエスターの悪事をすぐ周囲に伝えたり、危険を知らせて助けを求めることができませんでした。温室のシーンでその設定が生きていましたが、難聴だからこそ恐怖と同時に、目をつぶれば聴きたくない声も閉ざして落ち着いていられたのかもしれません。
ある意味、この家でもっともすべてを目にしながら、もっとも家族の悲痛な叫びや泣き声、怒声を聞かずに澄んだのかも。

巧妙に作り上げられたストーリーと、ホラー要素のバランスが良かったです。
個人的にはエスターが描いていた絵の全貌が知りたかったので、その辺りもちゃんと最後に見せてくれたのは大満足です。
想像していた以上のゾッとするやつ描いてました。