よしまる

海辺のポーリーヌのよしまるのレビュー・感想・評価

海辺のポーリーヌ(1983年製作の映画)
3.8
 親愛なるkくんにリクエストももらいつつ、マンスリーロメール!と銘打って毎月1本ロメール作品をレビューすることにしたけれど、あまりの忙しさに早くもひと月飛ばしてしまってごめんなさい。

 Twitterやフィルマで、あの映画観てよ!とかレビューをリクエストされるとか、こんな幸せな映画ライフはないと思う!

 さて、「喜劇と格言劇」シリーズ3作目にして受賞歴や人気の面でも代表作とされる「海辺のポーリーヌ」。
 前作「美しき結婚」からアリエル・ドンバール、パスカル・グレゴリー、フェオドール・アトキンが続投。3人とも同じ人物かと思うほどにキャラも似通っており、特にフェオドーン・アトキンは前作での不倫男に輪をかけてクズ男になってて既にオモロいw

 お得意の会話劇で、どいつもこいつも自分の行いを正当化することに必死で基本的に全員ロジックが破綻している。人は色恋沙汰となるとどうしてこうもマトモではいられなくなるのか。唯一、15歳のポーリーヌだけが冷静かつ客観的な判断で大人っぽさを見せる。けれどもそれが、愛すること、本気で人を好きになるとはどういうことかを知らないからこそなんだというのがロメール流の恋愛指南。

 5人の男女の誰一人として、登場から終幕まで何ひとつ考えを改めることもなければ気持ちが変わることもなく、すなわちドラマとしては何も動くことはない。

 それなのになんだろう、この魅力的な景色。田舎でラフなスタイルでプラプラと夏を満喫しているだけなのに、そのファッションや所作にいちいち嬉しくなる。

 男の子の好きなエロをわかっているロメールは、スタイリストによるファッションセンスを最大限に生かす着こなしとカットに心血を注いでいるように見えるし、頼りなげな男どもは母性本能をくすぐる仕草を欠かさずにいるのでみんなアホなのに誰も憎めない。いや、好き嫌いはあると思うけれど、では自分がこいつらのどれでもないほどに聡明で、嫉妬のカケラもない人間かと問われたら言われるまでもなくNOだ。

 具体的にはマリオンの夏服、バッグ、靴がぜんぶオシャレでたまげるが、アンリのシャツ、ジャケット、ポロ、全部赤ばっかりで、自室のカーテンにも赤の縁取り、タイプライターまで赤っていうこだわりが良かった。おるおるこんな奴!っていうね。

 今回格言は「口は災いの元」的な。思っていることを言わないと伝わらないけれど、言えば言うほど最初とは違う方向へと話を進めてしまうジレンマ。誰も嫌われたいなんて思っていないのに思いとは逆のことを言ってしまったり、相手を傷つけてしまったりというのはホントよくあること。

 実質の主人公ともいうべきマリオンが最後に言えない想い(否、言わない想い)を独白し、きっとお出かけ服なのだろうセーラーに再び身を包んだポーリーヌがそれにうなづいて場面はオープニングシーンへと戻る。冒頭、鮮やかに咲き誇っていた紫陽花が色を失くし始めていることに気づいたとき、こんなふうにして自分の思うように恋愛するのも悪くないもんだなと、こんな歳になってしまってからしんみりとしてしまったよw